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【第53回NY映画祭】マイケル・ムーア監督、新作でオスカーにカムバック?

2015年10月13日 18:06

第53回ニューヨーク映画祭でマイケル・ムーア監督の最新ドキュメンタリー『Where to Invade Next』が上映され、ムーア監督が記者会見に応じた。

新作『Where to Invade Next』を引っさげ第53回ニューヨーク映画祭に登場したマイケル・ムーア監督 | [c]JUNKO

コロンバイン高校銃乱射事件を描いた『ボウリング・フォー・コロンバイン』(03)で第75回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー映画賞を受賞したムーア監督は、その後も一貫してアメリカ批判(共和党、とりわけブッシュ大統領)に徹しており、過激なイメージが強い。だが、多くのメディアが伝えている通り、今作は明らかにこれまでのようなアメリカ批判とは異なっている。

アメリカ国民が支払っている税金の50%以上が、国民に知らさせれずに軍事費にあてがわれていることを指摘した上で、イタリアでは、労働者の士気向上のために8週間のハネムーン休暇とボーナスが支給される現実や、フランスの学校給食がまるで高級レストラン並みであること、ノルウェーでは死刑制度がないどころか、刑務所がホテル並みの設備で優遇されている現実などを紹介。しかし、それらは単なる、アメリカ批判のためのものではない。

上映後にメディアから大きな拍手が沸き起こると、ムーア監督は、「雨の中、僕の作品を観に来てくれてありがとう。トロント国際映画祭では既に上映されているが、アメリカでの上映は、テストスクリーニングもしないで秘密裏にしてきたので、ここでの上映が初めて。皆さんがどう受け止めてくれるかが気になって、すごくナーバスになっていた。でも、拍手をもらってうれしい」といたって謙虚。「トロントで、『今までの映画との違いは、彼がそんなに怒ってないってことだね。マイクはハッピーだ』と書かれていたのを見たけれど(笑)、僕は今までになく怒っている。だけど、アメリカの現実についての怒りを、別の形で表現してみたんだ。僕は政治の話をたくさんするが、もしスピーチをしたいだけなら、映画製作なんかしていないよ」と前置きした。

【写真を見る】アメリカの政策をテーマにした『Where to Invade Next(次に攻撃するのはどこだ)』

同作を製作するきっかけについて、「19歳で大学を退学した後、ユーレイルパスでヨーロッパに数か月滞在した際に、スウェーデンで足の指を骨折してしまった。それで病院に行ったら、『支払いは必要ない』って言われた。全く理解できなかったけれど、なんてすばらしいんだと思った。色々な国を旅しながら、なんていいアイデアなんだ、なんでアメリカではやらないのか?って思ったことが発端だった」と言う。

最近、オレゴン州のコミュニティー・カレッジ銃乱射事件で死傷者が出た事態については、「『ボウリング~』を製作した意味は何だったのかと思ってしまうね。あれから13年も経っているのに、何も変わっていない。米オバマ大統領は、少しずつではあるが、彼が進むべき道に向かっている。あと1年任期があるから頑張ってほしい」

「僕は単なる皮肉屋ではなく、楽天主義者なんだ。今回のようなことが起こると、僕たちは何をすべきかと考えるんだ。『アメリカでは、無理だ』という言葉はもう聞き飽きた。学生の頭がぶち抜かれている映像を見せることは、特に子供を失った親にしてみたら、たまらないだろう。でも、1か月ぐらい前に、難民の子供が海岸に流されて亡くなっている映像を流したら、すぐにメルケル独首相らが立ち上がり、『ドイツに来てください』と40万人もの難民を受け入れることを約束した。子供の写真が、ドイツ人や人々の心を突き動かした。そういう意味でも、フィルムメーカーは、映像によって何かを変えるきっかけを作ることができると考えている。何かを変えようとするときに、大多数の人の力が必要なわけじゃない。アメリカ独立の支持者も25%以下だったし、キリストも、使徒に選んだのはたったの12人だったんだから」と熱弁をふるった。

「アパルトヘイト問題もベルリンの壁崩壊もそうだし、同性愛者同士の結婚も、最近までアメリカでは41州が憲法や法律のもとに禁止していたのに、ひっくり返ったんだ。行動を起こさなければ何も起こらないし、起こせば必ず何かが起こると信じている」

「アイスランドでは、女性経営者の銀行だけが健全だったし、他の国ももっと女性が活躍している。一方でアメリカの人口の52%が女性なのに、上院議員及び下院議員に女性が占める割合はたった20%と少なすぎる。まさに性別におけるアパルトヘイトだよ。女性が、もっと活躍できる社会にするべきだ」と語るムーア監督の発言は、アメリカ初のアフリカ系アメリカ人大統領誕生に続いて、2016年に控えた大統領選挙で、民主党の代表となるだろうヒラリー・クリントンというアメリカ初の女性大統領誕生を支持するメッセージが込められている。

「どの国にも、問題点はある。でも僕は嫌な点ではなく、いい点を見つけたかった。他の国のためではなく、自分の国のために海外に行ったのだから。この映画は、“あなたたち”についてではなく“私たち”についての映画だ。僕は、偉大な国に住むアメリカ人なんだ」と語るムーア監督の愛国心に満ち溢れた同作は、批評家からの評判もおおむね好評。再びオスカーにカムバックなるか、おおいに期待されている。【取材・文・NY在住/JUNKO】

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