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『岸辺の旅』深津絵里と浅野忠信が語る黒沢清監督の魅力

2015年9月30日 15:00

妻が、死んだはずの夫と旅に出る。設定はファンタジーそのものだが、黒沢清監督、深津絵里、浅野忠信の顔合わせによる『岸辺の旅』(10月1日公開)は、とても地続きな夫婦愛が綴られた不思議な物語である。第68回カンヌ国際映画祭ある視点部門で日本人初の“監督賞”に輝いた本作。深津絵里と浅野忠信にインタビューし、黒沢監督の現場について話を聞いた。

『岸辺の旅』の深津絵里と浅野忠信にインタビュー | 写真/加藤アラタ

『岸辺の旅』の原作は湯本香樹実の同名小説。深津が演じるのは、3年間失踪した夫を待ち続けていたヒロイン瑞希役。いきなり帰ってきた夫・優介(浅野忠信)と共に旅をしていく。

黒沢監督と初タッグとなった深津は「黒沢監督はすごく丁寧な方」という印象を語る。「もの事に対してもそうですし、自分よりも年齢が下のスタッフに対しても、常に丁寧です。どんな人に接しても全く変わらないんです」。

黒沢監督とは、『アカルイミライ』(03)以来、久しぶりにタッグを組んだ浅野は、黒沢組の魅力をどう感じたのだろうか。「組という意味で言えば、ベテランの監督になると、スタッフもお馴染みの方たちで、組的なカラーがはっきりしてきて、できあがってくる何かがあると思うんです。でも、黒沢監督の組は、敢えて固まってない気がするんです。でも、それはすごく重要なことのような気がしていて」。

浅野は、常に固まらないということは、それだけ余地があるということだと捉える。「特にこの作品は、監督にとっても新たなチャレンジだったと思うので、できあがった組だと、何か余計なものが邪魔をするかもしれないなと。12年前の『アカルイミライ』の時も、良い意味でそういう印象がありました。監督ご自身が、常に自由でありたいという思いがあるのかもしれない」。

深津も「確かに、黒沢監督は、どんな人とも馴れ合わないような感じがします。長くやっているとくだけたりする瞬間があるはずなのに、黒沢監督はそういうことがまったくない。だからといって冷たいわけではなく、とにかく丁寧で真摯。何度も一緒にお仕事をしていると、『あ、こういうことね』という暗黙の了解みたいなことがあると思うのですが、そういうことが一切なくて、それが緊張感につながっている。全く濁ってない。そこが監督の魅力だと思います」。

演技派スターとして、真摯に作品と向き合ってきた2人だが、互いにいま、役者として自分自身をどう捉えているのだろうか。浅野は『アカルイミライ』に出演したのは、自分のやり方に限界を感じていた時だったと述懐する。

「それまで、みなさんから『浅野さん、ナチュラルな芝居をしますね』と、よく言ってもらっていました。もちろん、自分もそこはすごく心がけていましたが、それを自分のなかで追求してきて、どうしてかはわからないけど、自分のやり方に飽きてしまった時期だったのかもしれないです。それで、いままで自分が嫌だと思っていた芝居のやり方に向き合い、そこから10年くらい経ち、いろんなことをやりました。でも、やっぱり元々の自分のやり方がとっても大切だったんだと気づいたんです」。

浅野は、その10年余りの時間は無駄でなかったと言う。「これからは元々の自分と、これまで経験させてもらった違う自分とを、もっと活かせれば良いなと思っていた時、また黒沢監督に出会えました。すごく不思議な縁ですが、自分のなかで何倍も広がったうえで、この役に挑めたんです。そういう節目で監督とお仕事ができて、カンヌで監督賞をいただけたということで、何か花開いた感じがしました」。

深津も、10数年の女優としての道のりをこう振り返る。「私は、映画(『1999年の夏休み』)でデビューしましたが、その後、テレビドラマや舞台をやった経験がすごく身になっています。あの頃は、いろいろと思いながらやっていましたが、その結果が、すべて力になっている。やって無駄なことは何ひとつ無いんだなといまは思っています」。

深津は「いまの方がずっと楽しいです」と充実感をにじませる。「自分のことがどんどんわかるし、いろんな感情も知り、演じるうえで役に立つことも多い。素直に楽しいと思える年代になったのかなあ。だからあまり無理して拒否をしないで、自分に与えられる役柄が、いま自分が求められている歳相応のキャラクターだと、求められるまま、自然に受け入れていきたいですね」。

素晴らしいキャリアを重ねてきた2人は、時を経て、間違いなく人間力自体も豊かになっているようだ。『岸辺の旅』は、名監督の下、2人の成熟した演技が堪能できる極上の1作となった。【取材・文/山崎伸子】

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写真/加藤アラタ| [c]2015「岸辺の旅」製作委員会/COMME DES CINEMAS| 写真/加藤アラタ ヘア/Nori Takabayashi メイク/UDA(HM 鈴木) スタイリング/白山春久(白山事務所 ワタナベ)| [c]2016映画「淵に立つ」製作委員会/COMME DES CINEMA| 写真:まつかわゆま| [c]Kazuko Wakayama