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ガス・バン・サント監督『ミルク』で描くマイノリティへの暖かい眼差し

2009年4月15日 12:39

ガス・バン・サント監督

『エレファント』(03)や『パラノイド・パーク』(07)と、近年は実際にあった事件をテーマにしてきたガス・バン・サント監督。

彼が今回題材に選んだのは、1970年代にアメリカで初めて同性愛者だということを公表したサンフランシスコ市議ハーベイ・ミルク。映画『ミルク』は、ミルクが彼と対立する市議に暗殺されるまでの最後の8年間を描き、第81回アカデミー賞で脚本賞と、ショーン・ペンが主演男優賞を受賞したことでも話題の作品だ。

ミルクが死んだ時のことを、ガスはこう振り返る。「全米を車で横断している時にミルク死亡のニュースを聞いたんだ。でも、当時は彼が誰なのかはよく知らなかった。ミルクは当時、政治家で唯一ゲイだとオープンにしていた人間。そのせいで殺されたのかどうかはわからないし、映画の中でも疑問符のままハッキリさせずに終わらせている」

映画はミルクの同性愛者としてのプライベートな面も描きつつ、あくまでも暗殺事件に焦点を当てている。「僕らゲイの映画作家としては、事件そのものよりも、もっとミルク寄りに描きたいと思った。でもミルクの生き方とか困難をすべて描くには時間が足りないから事件に焦点を絞ったんだ」とガス。

「ゲイではない観客にとっても、知らないタイプの人たちを知ることができるし、そういう歴史があったことを認識してもらうことができる作品。若いゲイの子たちにとっても多くのメッセージを含んでいる思う」

ガスは過去にも『ドラッグストア・カウボーイ』(89)や『マイ・プライベート・アイダホ』(99)など様々なマイノリティやアウトローを描いてきた。特にデビュー作『マラノーチェ』(85)は、ゲイの白人青年の刹那的で危うい日常を描いた監督の原点ともいえる作品だ。

「『マラノーチェ』では、多くの人たちが関わらないようにしているような、今まで映画では見たことのない人々を描いた。彼らは自分なりの理想や価値観を持っていて、時には法を捻じ曲げてでも行動する傾向がある。それは『ドラッグストア〜』でも『マイ・プライベート〜』でも同じ。彼らの人生を描くことで、(映画を)見た人たちに何らかの変化があればという気持ちが多少あったと思う。ミルクも彼らと同じように(社会の)システムの外に存在する人間だし、人生の楽しみ方とか政治に変化を求めて道を切り開いていくヒーロー的な要素もある」とこれまでの自作と共通するものを指摘する監督。

最後まで社会の常識と戦い続けたミルク。もし彼が暗殺されていなかったら、世の中は変わっていただろうか。ミルクが今も生きていたら?と問うと、「サンフランシスコ市長になっているのは間違いないだろうね」とガスは笑う。「80年代に起こったエイズの危機でもより大きな声を出していただろうと思う。彼の死(1978年)の翌年、ワシントンDCでエイズのマーチが行われたんだけど、それも彼が率いてもっと早くに実行していたんじゃないかな。実際、ミルクはそういう話をしていたそうだし」

マイノリティやアウトローへの愛情にあふれた監督らしい作風ながら、自ら「『グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち』(97)のように多くの観客層に受ける映画」と胸を張る出来映えという『ミルク』。

ガス・バン・サント監督の集大成的な作品であり、観客に生きる希望と勇気を与えてくれる傑作だ。【ライター/清水千佳】

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