• TOP
  • 映画ニュース
  • 『大統領の執事の涙』、『プレシャス』…監督が差別、虐待など“ままならぬ状況”を描く理由とは?
  • INTERVIEW

『大統領の執事の涙』、『プレシャス』…監督が差別、虐待など“ままならぬ状況”を描く理由とは?

2014年2月14日 15:00

『大統領の執事の涙』リー・ダニエルズ監督を直撃!
『大統領の執事の涙』リー・ダニエルズ監督を直撃!

『プレシャス』(09)で過酷な運命に生きる黒人少女の希望を描いたリー・ダニエルズ監督。最新作『大統領の執事の涙』(2月15日公開)は、7人の大統領に仕えた黒人執事の実話をベースに、アメリカの歴史を浮き彫りにする壮大なヒューマンドラマだ。初来日を果たしたダニエルズ監督を訪ねると、「自分の子供たちに歴史を語るために撮ったんだ」と優しい笑顔。本作に込めた、深い思いについて聞いた。

本作の主人公は、小作農の子として生まれ、自らの力でホワイトハウスの執事までに上り詰めた男、セシル(フォレスト・ウィテカー)。ダニエルズ監督が「キング牧師の暗殺から、オバマ大統領の当選までを見渡せるキャラクターなんだ」と語るように、ケネディ大統領暗殺事件、ベトナム戦争、公民権運動など、アメリカが大きく動く瞬間、そして黒人たちが差別と戦ってきた歴史が、彼の目を通して間近で体験することができる。セシルを演じたフォレストに対しては、「30歳から90歳までを演じられる役者なんて他に考えられなかった。彼は昔ながらの魂を持っていて、それでいて役者界のフェラーリとも言うべき人さ」と絶大な信頼を寄せる。

50年以上にわたるアメリカの歴史を描く上で、大事にしたこととは何だろう?「実は編集をする前には、4時間半にも及ぶ超大作になってしまって(笑)。そこから、削ぎ落とすという作業が必要になった。そして、編集をしながら、本作にとって、歴史の側面というのは二次的なものなんだと改めて気付いたんだよ。色々なことが起きる時代に、家族がどのようにリアクションしていくかということが大事で。『これは、父と子のラブストーリーなんだ』ということに集中して、編集を進めていった。すべての核となるのは、家族なんだ」。

大統領の執事でありながら、息子たちの父親でもあるセシル。長男のルイスは、白人に仕える父親を恥じ、国と戦うために、反政府運動に身を投じていく。ゲイであることをカミングアウトしているダニエルズ監督自身は、実の甥と姪を養子にしているが、「若い世代は、いつだって何かが足りないと感じているんだよ」と父親の顔で思いを明かす。「でも、どちらが正しいということではないと思うんだ。セシルは白人に忠実に仕えることで、彼らの信頼を勝ち取った。息子は、実際に行動を起こして戦うことで、権利を得られると信じていた。それぞれが自分なりのやり方で、白人と黒人の関係を切り拓いていったんだ」。

ダニエルズ監督は、1959年生まれの54歳。やはり、「これまで数々の差別を受けてきた」と振り返る。「小さい頃、初めてアルファベットを覚えたのは、“白人専用”と“黒人専用”という言葉だった。水飲み場にも“白人専用”と書いてあって、最初は水じゃなくて、ジンジャーエールかスプライトでも出てくるのかと思ったよ(笑)。僕の恋人は白人で、たくさんの白人の友人もいるけれど、その一方でこれまでずっと、毎日毎日、偏見を受けてきたとも思う。アメリカで、“黒人である”ということは、大きな偏見を呼ぶことなんだよ」。

「僕の父親は13歳の時に亡くなっているんだ」と思い出を語る。「なぜか、父はいつもイライラしていて、いつも怒っていた。でも僕は、この映画を撮って、父を許すことができたんだよ。マイノリティであること、差別を受けることが、いかに重くのしかかっていたかがわかったんだ」と、監督自身にとっても大きな作品となったようだ。

自身の父親から受けた虐待経験を反映させた『プレシャス』、そして本作と、ダニエルズ監督の取り組む映画には、ままならぬ状況にあっても、自己を肯定し、前を向こうとする人々が描き出されている。ダニエルズ監督にとって、映画作りへのモチベーションとなるものは何だろう?「僕自身、“アンダードッグ(負け犬)”、いわゆる人生に勝ちそうにないタイプだった。僕はそういう人々を信じたいし、応援したい。映像作家として、声なき者に声を与え、見られざる者に顔を与えていきたいんだ。僕たちはそういう見えざる人々に、もっと感謝すべきだと思うんだ。僕はこれからもずっと、その人たちを信じて、感謝するような物語を作りたいと思っているよ」。

父、母、子どもたちの思い。本作は、教科書には載らないかもしれない、その一つひとつの思いが歴史を動かしてきたことを教えてくれる。「僕は子どもたちにとって、人生の師でありたいと思っているんだ」とダニエルズ監督。困難な経験、そして愛にあふれた人柄が、力強い映画を生み出している。【取材・文/成田おり枝】

関連映画ニュース