草刈民代、『終の信託』で「踊った後と同じような爽快感を感じた」 |最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
MENU

映画ニュース 2012/10/28 12:50

草刈民代、『終の信託』で「踊った後と同じような爽快感を感じた」

草刈民代の強みは、一流のバレリーナから女優に転身したというキャリアにある。『終の信託(ついのしんたく)』(公開中)を見てそう実感した。なぜなら、長年ライブの世界で勝負をしてきた彼女の集中力は、群を抜いて秀でているからだ。公私共にパートナーである周防正行監督は、そんな彼女の武器を最大限に引き出せる勝負作を用意した。草刈にインタビューし、その舞台裏について語ってもらった。

彼女が演じたのは、呼吸器内科医の折井綾乃役。同僚の医師との不倫に傷つくなかで、彼女は自分が担当するぜんそくの患者・江木秦三(役所広司)に安らぎを感じていく。やがて、迫り来る死期を感じ取った江木は、綾乃に「最期の時は早く楽にしてほしい」と懇願する。

草刈が最初に朔立木の原作小説を読んだ時の感想はこうだ。「愛する人とうまくいかないという思いを抱えながら、ひたすら仕事に邁進する綾乃の孤独感や使命感など、いろんなものが小説に書かれていて、生きることの切なさみたいなものを強く感じました。そして出演が決まった時、この役を演じるのはすごく大変なんじゃないかとも思いました」。

確かに、綾乃は心に大きな葛藤を抱える役どころだし、ラブシーンもある。何よりも女医役だから専門用語も多く、最後の取り調べのシーンでは、検察官役の大沢たかおとの長セリフのやりとりもある。だが、草刈は長セリフに関しては、さほどプレッシャーは感じなかったという。「実は、踊りを辞めた後にやった舞台の一本目が二人芝居だったんです。最初にそこから入ったので、長セリフに対する恐怖はなくなりました。長いセリフを覚えるのって達成感があるし、私は長ければ長いほどやる気が出て、それが活力になるタイプなんです」。

さすがに肝の据わり方が違う。彼女が語る、女優とバレリーナとの共通点にも納得させられた。「やっぱり演技って、集中力に尽きる気がするんです。踊っていた時は、どこまで集中するかなんてイメージしていなかったけど、トゥシューズを履いて回ったり、跳んだり、持ち上げられたりするのは、集中力がないと怪我をするし、失敗にもつながるんです。言ってみれば、その集中力がなければ、何も表現する事はできない。今回、取り調べのシーンを撮った後、踊った後と同じような爽快感がありました。役者として演じた実感があって、すごく楽しかったです」。

でも、綾乃になりきった分、精神的にはかなりきつかったとも語る。「あれだけ張り詰めた状態を持続させていくのは大変でした。怖くて誰とも口をきけなくなるくらいだったから。でも、それが芝居に活かされていったし、そこまで追い込まないと味わえない緊張感と自由を感じました。踊りもそうですが、ある地点以上に達すると、すごく自由になれるんです。素晴らしい踊りを見た時、よくこんなに自由に踊れるなって感心することがありますが、良いお芝居を見た時も同じように思います。人が心を動かされる瞬間ってそういうことだと思う。常にそれを目指したいですね」。

本作では、女優として今までにない充実感を感じたという。「綾乃役を演じたことで、今後、女優をやっていくことに迷いがなくなりました。このくらいの役をやり遂げないと、踊っていた実感と同じものは得られなかったと思います。今までは、役柄についてどの程度、何をやれば良いかと躊躇することがあったのですが、この役をやり終わった後は、どんな役でも自分なりにやっていけば良いんだって思えるようになりました」。

草刈にとって、特別な作品となった『終の信託』。本作で彼女は、女優として華麗にステップアップを果たしたのではないだろうか。意気揚々と演技について語る草刈が実に頼もしく思えた。【取材・文/山崎伸子】