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認知症で娘の人生と混同…原田美枝子の母が振り返る“女優人生”とは?

2020年3月30日 11:15

短編ドキュメンタリー『女優 原田ヒサ子』が3月28日から公開中だ。数多くの映画に出演してきた女優・原田美枝子の母親、ヒサ子が、90歳にして本作で女優デビューをすることになった。その背景には、認知症が進んだヒサ子がある日、娘である美枝子の人生をわが事のように語り始めたことにあった。24分間の映像にはなにが映されているのだろうか?

【写真を見る】すれ違いも経てきた母と娘…原田美枝子の母から見た美枝子の女優人生とは?
【写真を見る】すれ違いも経てきた母と娘…原田美枝子の母から見た美枝子の女優人生とは?[c]MiekoHarada

娘の人生をわが人生として語る母に、原田美枝子が決断

映画をはじめ数多くの作品に出演してきた原田美枝子が、本作では、監督・制作・撮影・編集を手掛けた。美枝子の3人の子どもとその家族である、VFXアーティストの長男・石橋大河と妻のエマニュエル、シンガーソングライターの長女・優河、女優の次女・石橋静河らも企画に賛同。ヒサ子の孫たちが、祖母の話を聞く姿をカメラが捉える。

優河の質問に対して“女優・原田美枝子”として気さくに応えるヒサ子
優河の質問に対して“女優・原田美枝子”として気さくに応えるヒサ子[c]MiekoHarada

認知症が進んだヒサ子は、「私ね、15の時から、女優やっているの」と語る。実は15歳から女優をしているのは娘の美枝子。美枝子は、その言葉を聞いた時に最初は驚いたと言うが、自分のことのように娘の人生を語る母を見て、本当は女優として生きてみたかったのでは…?と考え始める。そこでワンカットでも撮影して映画にすれば、女優・原田ヒサ子になれると美枝子は決断したのだ。

女優・ヒサ子が孫との共演で魅せた笑顔

通常、認知症になった人は、自分が一番光り輝いていた時代に戻ってしまうことが多い。ヒサ子のように、記憶が娘の人生とオーバーラップするのは、医学的にみても珍しいという。

孫の優河に自らの女優人生(実際は美枝子の女優人生)を語るヒサ子の表情は朗らかだ。優河は微笑みながらヒサ子の話を聞き、「どんな役をやっていたの?」、「時代劇はやらないの?」と質問をする。するとヒサ子は、「歳が中途半端だから最近は役がこなくて。女優さんはいっぱいいるからね…」としっかりとした口調で答える。

同じく孫の大河は、妻と一緒にヒサ子とカメラの前に立つ。大河の顔をジッと見て「あなた、いくつになった?」と聞き、大河が「30歳」と答えると「じゃあ私と10歳しか違わないわね」と返すヒサ子に、思わず笑いが起こる。

認知症を抱えるヒサ子を囲む家族たちのやり取りがとにかく温かい!
認知症を抱えるヒサ子を囲む家族たちのやり取りがとにかく温かい![c]MiekoHarada

メイクをして着物を着たヒサ子の女優としての笑顔

最終カットでは、ヒサ子が上品に着物を着こなし、きれいにメイクをして登場する。孫の静河がカチンコボードを叩いてカメラが回り始めると、まさに“女優”という表情を見せる。ヒサ子が、育ててきた娘と孫たちに向ける穏やかな笑顔は美しく印象的。優河が歌う挿入歌が流れる中、美枝子とヒサ子が寄り添い、海を見つめるラストシーンが心にジーンと染み入る。

孫で女優の石橋静河がカチンコを打ったあと、ヒサ子はどんな表情を浮かべるのか?
孫で女優の石橋静河がカチンコを打ったあと、ヒサ子はどんな表情を浮かべるのか?[c]MiekoHarada

劇中では、原田美枝子自身が本作を制作しようと思い立った経緯を説明している。「どうせなら、母をデビューさせてしまおう」と語る彼女の行動力は、認知症になった肉親にどう向き合っていくのかという、一つの家族の姿を見せてくれているように思う。老いた親にどう向き合えばいいのか悩んでいる人や、介護に少し疲れてしまっている人たちへ向けて、一つのヒントを与えてくれる作品のように感じた。

文/咲田真菜

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