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インタビュー 2020/2/25 13:47

来日したアリ・アスター監督が語る『ミッドサマー』の恐怖の源

『ヘレディタリー継承』(18)で世界を仰天させた俊英アリ・アスター監督の長編第2作『ミッドサマー』(公開中)は、再び気鋭の制作会社A24と組んだ衝撃のスリラーだ。舞台はスウェーデンの人里離れた森の奥のコミュニティ。夏至を祝う祭を見物するために、白夜のこの地を訪れた米国の大学生たちを待つ悪夢とは!?

監督は自身の失恋体験から発想を得て、精神を圧迫し、心を引き裂くかのようなドラマを創造したという。来日した彼のインタビューから、未知のホラーを描き続けるその頭の中を少しだけのぞいてみよう。

長編デビュー作『ヘレディタリー 継承』で称賛を浴びたアリ・アスター監督が来日
長編デビュー作『ヘレディタリー 継承』で称賛を浴びたアリ・アスター監督が来日撮影/杉映貴子

――狂気とも言える民間信仰のアイデアは、どこから出てきたものなのでしょう?

「もともと儀式や伝統に興味があったんだ。スウェーデンのプロデューサーからオファーをもらった時に、夏至祭という行事があることを知った。そこには未知なるものへの恐怖があり、物語は若者たちのアドベンチャーとも言える。彼らの体験は確かにホラー的だ。そういう面の一方で、この映画にはダニーのドラマがある。彼女の心の旅路を、映画は辿っているんだ。描かれていることの全ては、彼女の内部で起こっていると言ってもいい。家族を失ったダニーの新たな家族の模索こそが、本作の究極的な要素だ」

――ダニーを演じたフローレンス・ピューは目覚ましい活躍を見せていますが、彼女の強みについて教えてください。

「たくさんあるよ。才能があり、自信をもっており、とにかく恐れを知らない。もちろんカリスマ性もある。キャスティングした時は『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』(19)はつくられていなかったし、『ファイティング・ファミリー』(19)もまだ公開されていなかった。僕は自分の本能に従って、未知の彼女を選んだんだ。撮影を始めて1週目に、ダ

ニーがマジック・マッシュルームでトリップするシーンを撮ったんだけど、フローレンスの演技を見て、『これはイケる!』と確信したよ」

【写真を見る】主演のフローレンス・ピューは『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』で第92回アカデミー賞助演女優賞候補に
【写真を見る】主演のフローレンス・ピューは『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』で第92回アカデミー賞助演女優賞候補に[c]2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.

――“ホルガ”で行われる儀式を通して、痛々しい人体損壊描写をあえて描いたのは、どういう意図があったのでしょう?

「この映画はトラウマについての作品だ。ダニーは圧倒されるほどの現実と向き合わねばならないんだけれど、“ホルガ”での儀式は彼女にとっての凄まじいトラウマになる。それを観客に伝えるためには、あのような表現が必要だと思ったんだ。単にゴアを見せたいわけじゃない。必要なものを描いているだけだ。もしも誰かを鈍器で殴るような場面が必要だったら、喜んで殴るよ(笑)」

――村人の老人に扮するのが、『ベニスに死す』(71)では美少年だったビヨルン・アンドレセンであることに驚きましたが、彼を起用した理由は?

「スウェーデンのキャスティング・ディレクターが推薦してくれたんだ。出番は少ないが重要な役をアンドレセンが演じることになって、とてもワクワクしたよ」

――『ヘレディタリー 継承』もそうでしたが本作も音響設計が見事で、音だけでもドキドキさせられました。サウンド面ではどんなことに気を配っていますか?

「観客に没入するような映画体験をしてほしいから、そのために音響は重要だ。サウンドは観客を催眠状態に引き込む要素だから、その設計は大事な作業になる。映画のムードをキープするうえでもね。ホラー映画にありがちな、不意の大音響でビックリさせる、そんなチープなトリックは避けたい。バイオレンス描写と一緒で、そういう音もストーリーを語るうえで必要ないと思ったら使わないよ。実はサウンド・デザインは僕にとって、とても好きな作業なんだ。観客を包み込むような、そういう音響を常に心がけているよ」

“ホルガ”の鮮烈な色彩はセルゲイ・パラジャーノフ監督の『ざくろの色』(69)を参考にしたという
“ホルガ”の鮮烈な色彩はセルゲイ・パラジャーノフ監督の『ざくろの色』(69)を参考にしたという[c]2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.

――本作は今村昌平監督の『神々の深き欲望』(68)を参考にしたとのことですが、監督は日本映画に造詣が深いと聞いています。日本映画のどこに魅力を感じるのでしょうか?

「子供の頃から世界中の映画を観てきたけれど、日本映画はとりわけ大好きだった。とにかくレベルが高い。市川崑の『野火』(59)ほど強い印象を感じさせる映画は他にないし、小林正樹の『怪談』(65)ほどホラーというジャンルで美しさを構築した作品はないと思う。小林監督の作品は全てが、僕に大きな影響を与えてくれた。『怪談』はもちろん、溝口健二の『雨月物語』(53)、新藤兼人の『藪の中の黒猫』(68)、大島渚の『愛の亡霊』(78)など、日本のゴースト・ストーリーには他にはないエレガンスを感じるね。彼らのカジュアルなシュルレアリズムと、センチメンタリズムの完全な拒絶は、僕にとってはたまらない魅力だ。それに多くの意味で、日本の監督は映画のパイオニアだと、僕は考えている。黒澤明の名は誰でも口にするけれど、彼の作品における映像の構図やカメラワークが、あらゆるフィルムメイカーに影響を与えているのは明白だし、小津安二郎もミニマリズムのパイオニアだ。もちろん現代の日本の映画監督にも注目しているよ。アートに対してシリアスかつ誠実に向き合っている点が素晴らしいと思う」

――『ヘレディタリー継承』も本作も“王位”は重要な要素となっていますが、それにはどんな意図が込められているのでしょう?

「若者が王位に就くというのは、さまざまな物語で描かれるひとつのパターンで、そこには普遍的なものがある。僕が好きなのは、現実の世界から違う世界に移行する、そういう流れだ。若者がここではないどこかで王になりたいと願う、僕はそれを“ドリーム・ロジック”と呼んでいるけれど、そこにはドラマがあると思う。そして王位というものは、常に継承される。『ヘレディタリー 継承』は、それがはっきり出ているよね。そして僕の映画では、王位だけでなくトラウマも誰かに継承されるんだ。彼らがかぶる王冠は、とてつもなく重いものなんだよ」

取材・文/相馬学【DVD&動画配信でーた】

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