クリント・イーストウッドが語る、現代社会への警鐘「いつでも“悲劇”は起こりうる」 |最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
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インタビュー 2020/1/7 18:30

クリント・イーストウッドが語る、現代社会への警鐘「いつでも“悲劇”は起こりうる」

クリント・イーストウッド監督が“実在の英雄”を描く理由とは?
クリント・イーストウッド監督が“実在の英雄”を描く理由とは?[c]2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

1996年のアトランタ五輪の最中に起きた爆破事件で多くの命を救いながらも、メディアによって事件の容疑者に仕立てられてしまった男リチャード・ジュエルの実話を描いたクリント・イーストウッド監督の最新作『リチャード・ジュエル』が1月17日(金)より日本公開を迎える。

近年『アメリカン・スナイパー』(14)や『ハドソン川の奇跡』(16)など、実在の英雄の物語を描き続けてきたイーストウッド監督に、このような題材を選ぶ理由を訊いてみると「わからないよ」と微笑み「みんながドラマを大好きだからだ。人々はそれがまったく信頼性がなくても興味深いストーリーだと思う。でも僕は、そのストーリーが真実であることを好むんだ」と、実話を映画化する上での強いこだわりを語ってくれた。

『リチャード・ジュエル』は1月17日(金)から公開!
『リチャード・ジュエル』は1月17日(金)から公開![c]2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

本作は1997年にヴァニティ・フェア誌に掲載されたマリー・ブレナーの記事を原作としている。国家への忠誠心を持ち、人のためになるような行動をしようと心がけてきたリチャードは、警備員として働いていたイベント会場で爆破物を発見。率先して市民を避難誘導し多くの命を救ったことでメディアから“英雄”として取り上げられる。しかし「FBIが疑惑の目を向けている」と実名報道されたことから生活は一転。名誉やプライバシーを奪われたリチャードは汚名を晴らすために、かつての職場で知り合った弁護士のワトソンに助けを求める。

「元になった記事を読んだ時に、とても興味深いと思った」と明かすイーストウッド監督。もともと原作の映画化権を持っていたのは『J.エドガー』(11)でタッグを組んだレオナルド・ディカプリオだったとのことで、彼から手付かずだった権利を買い取り、4年越しで映画化に漕ぎ着けたのだという。「かつて権利を所有していたことに対してプロデューサーのクレジットをあげたのだけれど、実はしばらくレオに会っていないんだ」と明かすイーストウッド監督。

偶然にもディカプリオは今年、かつてのイーストウッド監督を彷彿させるキャラクターを演じた『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(19)で第77回ゴールデン・グローブ賞の主演男優賞(コメディ/ミュージカル部門)にノミネート。イーストウッド監督は同作をまだ観ていないとのことで「実際毎日いろんな人から『観ましたか?』と訊かれて、その度に『ノー』と答えているよ(笑)。なぜなら上映時間が長いから座るのに良いスポットを取って観ないといけないからね。でも観るのを楽しみにしてるし、レオとも是非会いたいと思ってるよ」と楽しげな表情を浮かべた。

「『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を観るのを楽しみにしてるよ」
「『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を観るのを楽しみにしてるよ」[c]2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

本作のテーマの一つとなっているのは、マスメディアや権力の暴走。イーストウッド監督は「僕は1996年に実際起きた“アメリカの悲劇”と呼べる出来事を映画として語ろうとしただけだ。でもいまでも、いつでも“悲劇”は起こりうることだ」と警鐘を鳴らす。「マスメディアはとても競争が激しく、みんながただ引き金を引きたいと思って、よく調査するということをしたがらない。当時からそういう状況だったが、多分将来はもっと悪いことになるだろう」。

また近年では、ソーシャルメディアの普及によって一般市民からも多くの情報が伝達される時代となり、新たな弊害も生みだされている。そうした現状については「とてもクレイジーだと思うよ」と忌憚なく斬りこむ。「ソーシャルメディアは、人生を違う風にセットアップしてくれるものだ。人は昔を懐かしんで『昔は良かった』ということはできるが、実際はそんなに素晴らしくないこともあった。でもあることだけはいまよりも良かった。それは周囲で起きていることを見たり、聞いたり、吸収することができたことだ」と語る。

「つい先日も、周囲を見回した時にすべての人が携帯電話を持っていることに気が付いたんだ。レストランで誰かと食事をしていても、それだけを見ていて、まるですべてを乗っ取られているみたいだ。僕は『誰も周囲を見回したりしないの?』と感じたよ。昔の人々は自分たちが見たものを見て、それが心の中に残ったんだ。いまのようなことになっているのは、ちょっと気が滅入るものだね」。

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【写真を見る】今年の5月で90歳!?衰え知らずの巨匠が最新作に込めた想いを語る[c]2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

今年で90歳を迎えるイーストウッド監督だが、近年は毎年のように最新作を発表するなど、いまだ衰え知らず。次回作の予定はあるのかと訊ねてみると「まだ予定はないよ」と笑顔で即答し「でもいくつかの題材を読んで、何が興味深いものかを見つけようとしているところなんだ」と含みをもたせる。そして、NetflixやAmazon Primeなど映画のプラットフォームが大きな転換期を迎えていることについては「オッケーだよ」と満面の笑み。

「それがみんながそうしたいことなのだと思う。もし映画をそういう風に見せたくて、それができるのならば構わないと僕は思っている。でも僕はいまでも映画館が好きだ。それに僕は自分の映画を映画館で見せるのが好きだから、もしこの映画がテレビで流すつもりだと言われたらがっかりしていたことだろう。映画館で見られるように撮影されているからね」と、独自のスタイルを貫き作りあげた本作への確かな手応えをのぞかせていた。

構成・文/久保田 和馬

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