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吉岡秀隆「渥美清さんを忘れた日は、1日もない」後藤久美子と語り合う“寅さんへの思慕”

2019年12月28日 14:00

まさに“戦友”と呼ぶにふさわしい、2人だけが持つ特別な空気感をお届け!
まさに“戦友”と呼ぶにふさわしい、2人だけが持つ特別な空気感をお届け!撮影/黒羽政士

「男はつらいよ」シリーズの22年ぶりにして50作目となる新作『男はつらいよ お帰り 寅さん』が12月27日より公開中だ。主人公の“寅さん”こと車寅次郎(渥美清)が、家族や恋したマドンナを巻き込み、騒動を巻き起こすさまをつづる本シリーズ。最新作では生みの親である山田洋次監督のもと、4Kデジタル修復されてよみがえったシリーズ映像を交えながら、寅さんの甥っ子の満男とその初恋の人、イズミを中心とした新たなる物語を描きだす。青春期に初々しいカップルとして共演を果たしたのが、満男役の吉岡秀隆とイズミ役の後藤久美子。寅さんからたくさん背中を押してもらった満男とイズミだが、2人に話を聞くと、吉岡が「渥美清さんのことを忘れた日は1日もない」、後藤が「寅さんに会いたい」と語るなど、寅さん、そして渥美清への思慕があふれだした。

「台本を開くのが本当に怖かった」(吉岡)

「寅さんに励ましてもらうことはたくさんあった」
「寅さんに励ましてもらうことはたくさんあった」撮影/黒羽政士

ーー寅さんがスクリーンに帰って来ました。吉岡さんは『男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎』(81)で初登場して以来、寅さんの甥っ子の満男役を長年演じられてきました。22年ぶりの新作の台本を開くというのは、特別な想いがあったのではないでしょうか。

吉岡「台本を開くのが本当に怖かったです。自分のお芝居が通用するのだろうかとも思いましたし、渥美さんがいらっしゃらないなかでどんな映画になるのだろう、寅さんをずっと大好きで大事に思っているファンの方々を裏切りはしないだろうかなど、自分のなかであらゆる葛藤がありました。でも山田監督にお会いして、監督の『寅さんに会いたい』『寅さんを撮りたいんだ』という情熱に触れて、台本を開くのが怖いなんて思っていたのはとんでもないことだと思いました」

ーー後藤さんは、満男の初恋相手のイズミとして『男はつらいよ ぼくの伯父さん』(89)以降、シリーズ6作目の出演となります。女優さんとしても本作が23年ぶりの復帰作となりますが、どのような想いで台本を受け取りましたか?

後藤「山田監督からお声がけをいただいてから、台本がいつ届くんだろうと待ちわびていました。いただいてからは、読み込むこと、理解することに必死でした。イズミの職業や私生活など、同じような人生を歩んでいる人たちの本を読んだりしながら、いまのイズミを感じ取っていったように思います。私は過去のシリーズでも、とにかく必死で。思い出そうと思っても記憶にないくらい、必死だったんです。本当に偉大なシリーズに参加させていただけたなと思っています」

吉岡「台本を読んで、満男とイズミちゃんは一緒になっていなかったんだ!という驚きもあったよね(笑)。僕の想像を遥かに超えるようなもので、この20数年間のキャラクターたちの生きていた時間を感じて、胸がいっぱいになりました」

後藤「やっぱり寅さんを一番恋しく思っていたのは、山田監督なんだなと思うような台本でしたね。山田監督が『作りたい』『作るんだ』とおっしゃっているのだから、すべてをお任せしよう!と喜んで現場に向かいました」

「満男さんという存在はきっと、山田監督ご自身」(後藤)

「男はつらいよ」シリーズの22年ぶりにして50作目となる新作がスクリーンに登場する
「男はつらいよ」シリーズの22年ぶりにして50作目となる新作がスクリーンに登場する[c]2019松竹株式会社

ーーかつて演じた役柄に、長い年月を経て再び挑むということに不安はありませんでしたか?

後藤「吉岡くんは長い間、同じ役を演じるエキスパートだもんね。でもこれだけ長い期間を経てというのは、なかなかないことなのかな」

吉岡「それはもう現場に行くまでは、『また満男になれるんだろうか』と不安しかなかったです。でも倍賞(千恵子)さんや(前田)吟さん、久美子ちゃんの声を聞いたりして、音を聞くなかで徐々に徐々に、役に入っていけたように思います。そしてやはり、監督からかけていただく言葉も大きいですね。僕が満男に“戻る”のではなく、“戻していただいた”といった感覚。監督の演出が入って、丁寧に丁寧に役をつくってくださる。決して自分ひとりでできる作業ではないよね」

後藤「本当にそう思う! 『満男とイズミはこういう人生を歩んできたんだ』とひとりでいくら考えても、想像には限りがあって。私はもう、絶対的に信頼している山田監督と吉岡くんがいてくれたら、大丈夫という気持ちでした」

『男はつらいよ お帰り 寅さん』は公開中
『男はつらいよ お帰り 寅さん』は公開中[c]2019松竹株式会社

吉岡「そういえば昔、久美子ちゃんが『満男さんは、山田監督そのものだと思う』と言っていたことがあって。寅さんにこんな質問を投げかけたいと思っているのは、きっと山田監督ご自身。満男が発する『人はなんのために生きているんだろう』という言葉も、山田監督が寅さんに投げかけてみたい言葉だったんだと思います」

後藤「『満男さんは、山田監督そのものだと思う』と言った時、倍賞さんに褒めていただいたんですよ。『あらあなた、いいこと言うじゃない』って(笑)。うれしかったなあ。やっぱり私も山田監督、そして吉岡くんにイズミに戻してもらったんだと思います。イズミをまた演じられる時がくるなんて思ってもみなかったですから。うちの娘が23歳になったのですが、私にとっては23年ぶりの女優復帰でもあります。23年も経ったなんてとても信じられないですね。特に2人目の子どもが生まれてからは、毎日が大変で。あっという間に日々が過ぎていきました」

「渥美清さんのことを忘れた日は、1日もない」(吉岡)

「渥美清さんは特別な存在」とはにかむ吉岡
「渥美清さんは特別な存在」とはにかむ吉岡撮影/黒羽政士

ーー「困ったことがあったらな、風に向かって俺の名前を呼べ。おじさん、どっからでも飛んできてやるから」という寅さんのセリフも印象的です。お二人にとって「こんな時、寅さんがいてくれたら。寅さんに会いたいな」と思ったご経験はありますでしょうか。

吉岡「それはずっと、常にです。きっとファンの方が、なにかにぶつかった時に『寅さんに会えたら…』と思ってシリーズを見返すのと同じ気持ちだと思います。僕も現場でつまずいたり、うまくいかないなと思うと、いつだってふっと出てくるのは寅さんであり、尊敬する渥美清さんのお顔。僕のなかでは本当に特別な存在ですし、忘れた日は1日もありません」

後藤「私も寅さんに励ましてもらうことはたくさんあったように思います。そしてまたシリーズを見返してみると、改めて渥美さんのすばらしさを実感して、『寅さんに会いたい』という気持ちが大きくなっていくようでした。私、元気付けられるような寅さんのセリフを書き写したいなと思っているんです」

ーー特に胸に響いたようなセリフはありますか?

後藤「特に好きなのが、寅さんが(42作目『男はつらいよ ぼくの伯父さん』で)『満男をほめてやりたい』というセリフ。寅さんの甥っ子を思う気持ちがよくわかるし、渥美さんのお芝居があってこそ、また胸に染みるシーンになっていて…。寅さんと満男さんの関係性もたまらなくステキだなと思います」

吉岡「本当だね。あのシーンはたまらないね。今回、僕は山田監督と一緒に“寅さんを探す旅”に連れて行ってもらったような気がしていて。完成した映画を皆さんと一緒に観られたら、僕のなかでは旅の終着点のひとつになると思っています。シリーズを台無しにしてはいけないという思いもあり、今回は本当に大変なお仕事でしたが、楽しんでいただけたら、渥美さんもきっと喜んでくれると思います」

「50年かけて完成する映画に参加できて光栄」(後藤)

「満男をほめてやりたい」というセリフが好き
「満男をほめてやりたい」というセリフが好き撮影/黒羽政士

ーーシリーズ1作目が公開されてから、50周年を迎えました。それぞれの時の流れを映しだした本作が完成し、山田監督は「50年かけて今度の新作を作った感じがする」とおっしゃっていました。

吉岡「僕も27作目からの参加ですからね。山田監督、そして倍賞さん、吟さんも本当にすごいです。僕が生まれていないころから、シリーズを続けているんですから。その新作をつくるというのは、やっぱりものすごく勇気のいることだったのではないかと思います」

後藤「50年かけて完成する映画…。そんな作品に参加できて、とても光栄に思います。私は以前の5作品に呼んでいただいた時も、それがどんなにすばらしいことかを理解していました。私はその後、海外での生活を始めたので『海外にいるから寅さんに会えないんだ、日本に戻ってくればきっと寅さんに会える』と思い込むようにして暮らしてきたようなところもあるんです」

吉岡「おじさんがいたら、家族は本当に大変なんだよ(笑)」

後藤「あはは!」

吉岡「でもいまの時代、寅さんのような人がいたらいいなあ、寅さんのように声をかけてくれる人がいたらいいなあと思う」

後藤「各学校に一人ずつ、ああいう先生がいてくれたらいいなあ! 各学校に一人は多いかな(笑)?」

息ぴったりのお喋りは、取材時間をオーバーしてしまうほどに弾んだ
息ぴったりのお喋りは、取材時間をオーバーしてしまうほどに弾んだ撮影/黒羽政士

終始笑顔をこぼしながら、寅さんと渥美清への愛情たっぷりに語ってくれた吉岡と後藤。最新作では満男とイズミのその後はもちろん、老夫婦となったさくらと博をはじめ、リリー(浅丘ルリ子)ら寅さんに関わった人々の人生の黄昏時も映しだされるなど、まさに50年かけてつくられる“奇跡の映画”と呼ぶにふさわしい作品となった。歴代マドンナの輝きも胸に響き、日本映画の歴史を堪能するうえでも必見の1作としてオススメしたい。

「寅さんからたくさん背中を押してもらった」と笑い合った2人
「寅さんからたくさん背中を押してもらった」と笑い合った2人撮影/黒羽政士

取材・文/成田 おり枝

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