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ミステリー賞4冠の快挙!映画化も話題の『屍人荘の殺人』の今村昌弘先生を直撃

2019年12月21日 13:00

映画『屍人荘の殺人』の原作者、今村昌弘先生を直撃

今村昌弘の小説家デビュー作「屍人荘の殺人」が、「このミステリーがすごい!」「週刊文春ミステリーベスト10」「本格ミステリ・ベスト10」で第1位を獲得し「本格ミステリ大賞【小説部門】」も受賞。処女作で主要ミステリー賞4冠の達成は、文壇における“事件”だった。その勢いに乗った同小説が、神木隆之介、浜辺美波、中村倫也という、日本映画界を牽引する人気実力派俳優を迎えて映画化。今村先生は、一連のムーブメントと、完成した映画『屍人荘の殺人』(公開中)をどう見たのか?単独インタビューを敢行した。

大学のミステリー愛好会に所属する自称“ホームズ” 明智恭介(中村倫也)と、ミステリー小説オタクで、“ワトソン”的な役回りの葉村譲(神木隆之介)が、謎の美人女子大学生探偵、剣崎比留子(浜辺美波)から、脅迫状が届いたというロックフェス研究会の合宿へ参加するよう依頼される。彼らは山奥のペンション、紫湛荘(しじんそう)を訪れるが、次々と殺人事件が起き、いつしかそこは“屍人荘”と化していく…。

「当時は怖いもの知らずで、たった3か月の突貫工事で書きました」

『屍人荘の殺人』は12月13日(金)より公開中 | [c]2019「屍人荘の殺人」製作委員会

処女作で4冠という前人未到の快挙を遂げた今村先生は、各賞の受賞結果を報告されるたびに戸惑いを覚えていったという。「デビュー作なので、賞をいただいても、正直、あまり現実感が湧かなかったです。自分のやろうとしたことが全部上手くいったのか、それともラッキーパンチ的なことだったのかもわからなかったので、受賞の報告を受けても『ああ、そうですか。ありがとうございます』と、あまり感情がこもっていない喜び方しかできなかったです」。

驚いたのは、「屍人荘の殺人」に費やした時間はたった3か月で、今村先生曰く“突貫工事”的に書いたものという点だ。「最初に、東京創元社の『ミステリーズ!新人賞』に別の短編で応募したら、最終候補に残れたんです。それで、また次を書こうと思った時、長編の鮎川哲也賞の募集を目にしました。そこに間に合わせるには残り3か月しかなかったので、急いで書いたんです。いまやれと言われたら無理ですが、当時は怖いもの知らずだったので」。

「屍人荘の殺人」は、同賞の審査において「古典かつ王道!」「斬新で奇抜」と激賞されるが、今村先生は執筆前に「右も左もわからず、どうすれば上手く書けるのかもわからなかったので、とりあえず自分が好きな密室ミステリーを書こうと思いました。物語の構造としては割とオーソドックスで、粗い部分もあるとは思いましたが、そこは物語の勢いで押し切りました」と苦笑いする。

その後すぐに、東宝での映画化が決定するが、今村先生は「作品が早くも自分の手から離れていった」と、喜びよりも驚きが先行したそうだ。「やった!映画化を勝ち取ったぞ、というような気持ちはまったくなく、『映画になるらしい。しかもメインキャストが豪華らしい』と、どこか他人事のようにしか思えませんでした。僕はただ、狭い部屋にこもり、1人で頑張って書いただけなのに、その作品がすごく遠くへ吹っ飛んでいったみたいな感覚でした」。

「映画のキャスティングは完璧でした」

ミステリー小説オタクの葉村譲(神木隆之介) | [c]2019「屍人荘の殺人」製作委員会

映画化が始動し、「TRICK」シリーズや「金田一少年の事件簿」など、ミステリー作品に定評がある蒔田光治が、原作の妙味にコミカルな要素を更に盛った脚本を仕上げ、ドラマ「99.9-刑事専門弁護士-」や「民王」など、骨太なキャラクター描写に定評がある木村ひさし監督がメガホンをとった。

今村先生は、映画のスタッフ陣はもちろん、キャスティングにも「完璧です」と感激したという。まずは、神木と中村の“迷”コンビについて。「葉村はすごく地味な役だけど、ちゃんと存在感があるキャラクターでなければいけなかった。そこを神木さんは絶妙に演じてくださった。明智はいわゆる変人的な立ち位置なので、それが嫌味に感じる人だと成り立たない。中村さんの、観ているこちらが思わず惹きつけられる変人役は抜群に良かったです」。

私立探偵の顔も持つ美女・剣崎比留子(浜辺美波) | [c]2019「屍人荘の殺人」製作委員会

そして、どこか浮世めいたキャラクターである比留子役の浜辺美波についても、先生は太鼓判を押す。「比留子は、ボーイッシュな語り口調で、エキセントリックなキャラクターだから、実写化すると周りから浮くのではないかと思っていましたが、そこは浜辺さんがうまく演じてくれたので、すごくハマリ役になったなと思いました」。

原作にはないシーンで、今村先生がおもしろく観たのは、葉村と明智が、ある事件を推理をする冒頭のシーンだ。「あれはオリジナルストーリーですが、2人の過去やキャラクターを端的にわかりやすく紹介しています。そこは映像ならではの魅力ですね。また、比留子が雲龍型の土俵入りの型を披露するシーンも原作にはないです。あれが許される映画の空気感が最高でした」。

[HEAD「数字を、自分のものだと思ったら絶対にダメです」

映画『屍人荘の殺人』を絶賛した今村昌弘先生

事実は小説より奇なりというが、今村先生の人生において、小説の執筆時から、映画の完成までの流れは、実にドラマチックだ。先生は「幸運なできごと」としながら、作家になると踏み切った当時を、冷静に反芻した。

今村先生は、それまで放射線技師として生計を立てていたが、その職業を選んだのには理由があった。「高校で進路を選ぶ時、特にやりたいことがなかったけど、フラフラしていたら駄目だと思い、いつか自分のやりたいことが見つかった時のために、ちゃんと生活基盤を作っておこうと考えました。それで医療系の資格を取ろうと思い、大学へ進んだんです」と、かなりしっかりした人生設計を立てていたことを明かした。

「放射線技師としては8年間仕事をし、お金をちゃんと貯めていたので、作家1本でやっていくと決めた時、バイトなどは一切せず、貯金を切り崩して、執筆に専念することができました」。

そして、作家になりたいという夢は現実になったが、今村先生はそこでもきちんと襟を正し、あふれる賛辞の嵐に溺れることもなかった。

「仕事を辞めると決断したことや、そのあと努力したのは確かです。だからといって、デビュー作で4冠を獲らせてもらい、いきなり映画化されるなんてことは、そうそう起きません。もちろんアイデアを思いついたのは自分だけど、果たして自分はほかの作家さんと比べて数字的に10倍努力したのかというと、そうではない。自分を応援してくれた人たちが、映画化しようとか、コミカライズしようと動いてくれたから、10倍になっていったわけで。だから、作品についての数字を、自分のものだと思ったら絶対にダメで、周りの人たちのおかげだといつも感謝しています」。

山奥のペンションで連続殺人事件が起きる | [c]2019「屍人荘の殺人」製作委員会

処女作で脚光を浴びたことは、先生にとってもプレッシャーとなったことは間違いないが、そこでも先生は俯瞰で自分自身を見据え、着実に駒を進めてきた。

「4冠なんて、ベテランの方でも簡単には獲れないことだから、それをまた続けろと言われても無理というか、ハードルが上がりすぎて、越える気がなくなりました。また、あまりにも“マクロ”な範囲でものを見すぎるのも良くないから、いまの自分になにができるのかという“ミクロ”な範囲に視点を移したら、大事なことが見えてきたんです」。

行き着いたのは「これからも作品のクオリティを落とさずに書くこと」だった。「だから、敢えて2作目もペースを上げずに、ちゃんとしたものを作ろうと思ったんです。結局自分は小説家でしかないから、ちゃんとした本を書き、人に満足してもらおうと。また、自分のために動いてくださっている人も、ちゃんと大切にしていきたいと思いました」。

最後に映画について「これまでミステリーに縁がなかった人も、この映画ならとても楽しめると思いますので、ぜひ映画館に足を運んでいただきたい」と言ったあとで「そこから原作も楽しんでもらえれば、うれしいです」と爽やかに締めくくった。

取材・文/山崎 伸子

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