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【レビュー】時代も場所も選ばない初恋映画『ジョジョ・ラビット』のきらめき

2019年11月05日 11:30

“アカデミー賞の最初の切符”と言われるトロント国際映画祭の観客賞に輝き、一躍第92回アカデミー賞の最有力候補の一角へ名乗りをあげた『ジョジョ・ラビット』(2020年1月17日公開)が、現在開催されている第32回東京国際映画祭で日本初お披露目された。

『マイティ・ソー バトル・ロイヤル』(17)の監督を務め、ハリウッドのヒットメイカーの仲間入りを果たしたタイカ・ワイティティ監督が手掛けた本作は、『グリーンブック』(18)につづいてトロントからアカデミー賞の頂点へとのぼり詰めるだけのポテンシャルを秘めた作品なのだろうか。ここでは本作がどのような作品なのか、同じ題材に触れた過去の映画や、ワイティティ監督の初期作品から紐解いていきたい。

【写真を見る】「マイティ・ソー」の監督がヒトラー役に!?ポップな映像で戦争と初恋を描く | [c] 2019Twentieth Century Fox&TSG Entertainment

物語の舞台は第二次世界大戦下のドイツ。空想上の友達であるアドルフ・ヒトラーを心の支えに、ナチス・ドイツの青少年集団“ヒトラーユーゲント”の兵士になるため奮闘している10歳の少年ジョジョは、心優しい性格が裏目に出て臆病者の“ジョジョ・ラビット”というあだ名をつけられてしまう。そんな折、あることがきっかけで訓練から離れることになったジョジョは、母親のロージーと2人で暮らす家に隠し部屋を見つける。そこには、ロージーが匿っているユダヤ人の少女エルサがいた…。

本作を端的に要約するならば、ナチス時代の典型的なドイツ人少年に大きな価値観の変化が訪れる瞬間が、ポップな音楽と映像表現、そしてコメディタッチの語り口で軽やかに描かれる作品といったところだろう。劇中でコメディの役割を担うのは、ワイティティ監督自らが演じる空想上のアドルフ・ヒトラー。そしてジョジョという少年の視点で大戦終結直前の様子を映し出すことで、子どもたちが戦火へ送りだされ命を落としていくという戦争の凄惨さをしっかりと表現していく。ヒトラーや秘密警察の面々はギャグ要素として皮肉り、対照的にナチスに抑圧され洗脳されている人々は、どこまでも人間らしく描こうとするねらいがあると見受けられる。

アカデミー賞の一番切符をゲット!『ジョジョ・ラビット』が東京国際映画祭で日本初お披露目 | [c] 2019Twentieth Century Fox&TSG Entertainment

もっとも、ユダヤ人差別やナチス・ドイツを題材にした映画というのはこれまでも数えきれないほど作られてきた。それらと本作の違いを挙げるとするならば、その時代背景に限定されるいくつもの要素を取り払ったとしても、この映画が伝えたいメッセージやテーマはもちろん、物語自体もきちんと成立するということではないだろうか。異なる民族との出会いを通じ、民族や人種単位ではなく1人の人間として心を通わしていく姿。世界のいたる所で分断がつづく現在にも間違いなく響くようなテーマ性を携えた本作は、コメディと戦争ドラマという相反する2つの表情を持ち合わせていると同時に、まぎれもなく“初恋映画”であるといえる。

ジョジョは自分よりも6つ歳上のユダヤ人の少女エルサと出会い、はじめはユダヤ人へのヘイトを彼女に向けていくが、壁越しの交流を重ねていくうちに姉と弟のような関係を築いていく。そしてエルサに想い人がいることを知り、嫌がらせのつもりで嘘の手紙を書くものの、エルサの沈んだ表情を見てすぐさま新たな手紙を捏造して取り繕う。そして終盤にジョジョの中に孤独感や喪失感が高まってきたときに、エルサの存在はさらに大きなものへと変化していく。

ナチス側の少年が、“人間ではない”と教えられてきたユダヤ人が自分たちと同じ人間だと知っていく点においては、マーク・ハーマン監督の『縞模様のパジャマの少年』(09)にも通じる部分がある。けれどもそこに“初恋”の要素が加わることで、よりポップな魅力を持つ作品へと進化を遂げる。いわばナチス下のドイツにおける「ロミオとジュリエット」であり、クライマックスの展開からは『小さな恋のメロディ』(71)でもあるといえよう。

ここで思い出すのが、ワイティティ監督がニュージーランド時代に手がけ、アカデミー賞の短編映画賞候補にもなった『Two Cars, One Night(原題)』だ。バーの駐車場に停めた車の中で親が戻ってくるのを待っている少年が、自分と同じように親を待つ少女と出会う。はじめはちょっかいを出すものの、会話を重ねていくうちに心を開いていく。そして結局少女の親が戻ってきて2人は離れ離れになるわけだが、別れ際に自分を思い出してほしいと少女は少年におもちゃの指輪を手渡す。この10分間の短編と『ジョジョ・ラビット』は、シチュエーションは違えど同じラインの上にあると感じる。ワイティティ監督がナチスやヒトラーといったビビッドな題材を用いた本作で本当に描きたかったことは、実にシンプルで時代も場所も選ばない、とてつもなく普遍的な初恋譚だったのではないだろうか。

『ジョジョ・ラビット』は2020年1月17日(金)から日本公開される | [c] 2019Twentieth Century Fox&TSG Entertainment

前述したように、トロント国際映画祭で観客賞を受賞した作品は、近年では批評家的な視点よりも観客寄りの視点を重視しはじめているアカデミー賞において間違いなくポジティブに働くだけに、作品賞へのノミネートは確実なものと考えてもいいだろう(母親役のスカーレット・ヨハンソンやエルサ役のトーマサイン・マッケンジー、ナチスの大尉を演じたサム・ロックウェルらの演技賞も含め、技術部門での善戦も充分に期待できる)。あとは“子どもを主人公にした映画”が作品賞にならないという半世紀近くつづくジンクスを破ることができるのかどうか。これから本格化していく賞レースで『ジョジョ・ラビット』がどこまで飛躍するのか、あたたかく見守っていきたい。

文/久保田 和馬




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