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『ジェミニマン』アン・リー監督とブラッカイマーが語る、主演がウィル・スミスだった理由

2019年10月25日 20:00

『ジェミニマン』アン・リー監督と製作のジェリー・ブラッカイマー
『ジェミニマン』アン・リー監督と製作のジェリー・ブラッカイマー

ウィル・スミスが戦う相手は、なんとCGで再現された若き日の自分自身だった!ハリウッドの最新テクノロジーを駆使した近未来アクション超大作『ジェミニマン』(公開中)は、設定を聞いただけで胸が高鳴る。本作で来日したアン・リー監督と製作のジェリー・ブラッカイマーを直撃し、気になる製作秘話をうかがった。

ウィルが演じる伝説的スナイパーのヘンリーを襲ったのは、若いころの自分にそっくりな男だった。のちに彼が、自分自身のクローンだと知ったヘンリーは、潜入捜査官のダニー(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)と共に、背後にうごめく謎の組織に立ち向かっていく。

ブラッカイマーは、本作について「何十年も前から温めてきた企画だったが、ようやくようやく機が熟した。本作でやりたかったことにテクノロジーが追いついき、主演にウィル、監督にアン・リーを迎えられたことが大きかった」と満足気だ。

「主役を誰にするのかと考えた時、いくつかの条件が挙げられた」(アン・リー)

主人公は伝説のスナイパー、ヘンリー(ウィル・スミス)
主人公は伝説のスナイパー、ヘンリー(ウィル・スミス)[c]2019 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

ずっとトップスターとして活躍し続けているウィルに、「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズのプロデューサーとして知られるブラッカイマー、そして『ブロークバック・マウンテン』(05)、『ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日』(12)で2度のアカデミー監督賞に輝いたアン・リー監督という黄金のトライアングルは、まさに鬼に金棒という印象を受ける。

アン・リー監督も、ウィルのキャスティングについて「彼以外には考えられなかった」と言う。「主役を誰にするのかと考えた時、いくつかの条件が挙げられた。その人の若いころの姿を登場させることが前提だったので、昔から活躍している大スターであること。そして、キャリアを積んできて、折返し地点にいる年齢であることだ。当然、アクション映画になるわけだが、そこに哲学的な要素も織り交ぜたかった。この条件に当てはまるのは、ハリウッドを見渡しても、片手で数えるくらいしかいない」。

ブラッカイマーも「観客の皆さんが、若いころの姿を記憶しているスターでなければいけなかった」と補足する。確かにウィルなら、20代ですでに『インデペンデンス・デイ』(96)や『メン・イン・ブラック』(97)などで人気スターとなっていたし、ブラッカイマーは、彼の出世作となった「バッドボーイズ」シリーズのプロデューサーでもあったから、思いもひとしおだったであろう。

「僕は、たまたま監督として声を掛けてもらった」と謙遜するアン・リー監督について、ブラッカイマーは「本作の肝は、50歳からさかのぼった23歳の人間を、デジタルで作り上げるという点だった。アン・リー監督が『ライフ・オブ・パイ  トラと漂流した227日』でトラを作り上げた映像を観た時、彼ならやれると思ったし、スタジオ側が僕たちに懸けてくれたんだ」と、うれしそうだった。

【写真を見る】CGなのに違和感なし!現代のウィル・スミスと対峙する若き日のウィル
【写真を見る】CGなのに違和感なし!現代のウィル・スミスと対峙する若き日のウィル[c]2019 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

アン・リー監督が、本作で前のめりになって探求していったのは、人の表情がどう作られるのかというメカニズムだ。「人の感情がどう溢れでるのか、また、エイジングについても研究できる良い機会になると感じた。もちろん、論理的にできることはわかっていたけど、その映像を観た観客に、どういう印象を与えられるのかが一番の問題だとも思ったよ」。

実際、完成した映像は、CGとは思えないクオリティを誇る。まさにアン・リー監督は、SF映画において未知の扉を開いたのではないか。ブラッカイマーは、今回初タッグを組んだアン・リー監督について、演出力だけではなく、人となりについても手放しで絶賛する。「アン・リー監督は、いろんな点において卓越したフィルムメーカーだ。すばらしい紳士だし、とてつもない創造力や教養を兼ね備えた方で、監督としてのスキルがすごいだけではなく、コスト面もちゃんと意識してくれる。また、大規模な作品なのに、彼自身が細かいところまですべてに気を配っている」。

「正直、ここまで細部にこだわる監督は珍しい」(ブラッカイマー)

自分のクローンとの対面に葛藤するヘンリー
自分のクローンとの対面に葛藤するヘンリー[c]2019 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

製作段階ですでに「世界各国を飛び回る国際的なアクション大作を目指していた」というブラッカイマー。ロケはハンガリーのブダペスト、コロンビアのカルタヘナ・デ・インディアス、アメリカのジョージア州のサバンナで敢行された。

「アン・リー監督は、3か国を移動しての撮影だけではなく、デジタルスタッフのいるニュージーランドでも、1000名以上のアーティストとやりとりをし、すべての作業をチェックしてくれた。早朝から起きて、深夜1時くらいまで作業をしているエネルギッシュな方だ。また、役者とも特別な共通言語を持っていて、ウィルとも、ほんの一言、二言を交わすだけで、わかり合っていた。僕は見ていて、すごく不思議に思ったよ」。

技術面でいえば、本作は4K×3Dに加え、通常1秒24フレームで撮影するところを、1秒120フレームで撮ったことで、視覚的にも聴覚的にもよりリアルな映像となった。

「若いころのウィルを作るにあたり、新しい技術を取り入れなければいけなかったし、カメラも本作のために特別に作られたが、アン・リー監督は、それぞれの細かいニュアンスまで、すべてを確認していった。たとえば、1秒120フレームだと、とてつもなく情報量が多いから、役者のメイクについても何通りかテストをして、観客の目にどう映るべきかを確認したりしたよ。彼はすべてにおいて完璧を目指したが、正直、ここまで細部にこだわる監督は珍しい」。

アン・リー監督も、ウィルやブラッカイマーとの初タッグを、心から喜んだ。「ウィルやブラッカイマーと僕では、それぞれに代表作のカラーが違う。例えば、ウィルやブラッカイマーは、ド派手なアクションのブロックバスター映画をたくさん撮ってきたけど、僕の場合はヒューマンドラマの印象が強いかもしれない。もちろん、オーバーラップしている部分もあるけど、今回そこが良いコラボレーションになればいいなと思ったよ」。

実際に、2人と仕事をしてみたら、意外に感じた点も多かったとか。「ウィルについては、こんなに頑張る人なのか!と驚いた。彼はいまでもより良い俳優になろうという、良い意味での欲を持っていた。今回、若いころの自分を演じるという面では、相当苦労をしていた。彼自身が、役者として成長してしまっていたので、どうしても上手さがにじみでてしまったんだ」。

ブラッカイマーについては「現場では非常に支えてもらった」と感謝する。「ダイナミックなアクションは、ジェリーのほうが専門分野なので、彼の知識に助けてもらったよ。今回僕が軸にしていたのは、男の葛藤だったけど、そこがずれないように、サポートもしてくれた」。

潜入捜査官のダニー(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)と共に、背後にうごめく謎の組織に立ち向かっていく
潜入捜査官のダニー(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)と共に、背後にうごめく謎の組織に立ち向かっていく[c]2019 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

動画のネット配信が普及したことで、スマホで映画を観る人が増えている昨今だが、本作は「映画館で観るに値する映画」だと、ウィルもジャパンプレミアでアピールしていた。では、2人が目指す映画体験とは、どのようなものなのか?

イラク戦争を描いた前作『ビリー・リンの永遠の一日』(16)でも、ラスト12分で1秒120フレームのシーンを取り入れたアン・リー監督は、技術革新に余念がない。残念ながら日本では未公開となった映画だが、その技術は映画界でも話題となった。監督が常に追求しているのは「立体的な映像が生みだす映画への没入感」だと言う。

「デジタルシネマで、ストーリーをいかに生々しく受け取ってもらえるか、ということを突き詰めていきたい。この映画では、ウィルと若いウィルが格闘して会話を交わすが、それはかつてない映像体験になるのではないかと。そしてドラマに入り込めるからこそ、自分のクローンを前にした時、『自分とはなんなのか。宇宙の中でさまよう遺伝子にすぎないのか』という非常に実存的な悩みを味わうことになると思う」。

ブラッカイマーは、映画館へ足を運ぶ理由について「あなたの家に台所はある?普段は家でごはんを食べるけど、外食もするでしょ?それと同じことだよ」とスマートに答えてくれた。

「こういう映画は、集団で体験すべきものだとも思う。ワクワクする高揚感や笑いなどを人と共有して感じ取ってほしいんだ。僕もこの業界は長いけど、テレビが出てきた時、『もう人は映画を観るために外出しなくなる』と言われていたよ。また、ビデオが出た当初も『いよいよ映画は終わりだ』という声があった(苦笑)。でも、映画館の環境はどんどん良くなり、興行収入は上昇するばかりだ。本作もぜひ劇場で観てほしいよ」。

取材・文/山崎 伸子

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