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インタビュー 2019/10/20 19:00

「『真実』と『ジョーカー』は無関係ではない」是枝監督最新作と2019年の映画地図

是枝裕和監督が“映画”と“映画祭”を語った(『真実』メイキング写真より)
是枝裕和監督が“映画”と“映画祭”を語った(『真実』メイキング写真より)photo L. Champoussin [c]3B-分福-Mi Movies-FR3

是枝裕和監督が国際的なキャスト、スタッフと共に作った最新作『真実』が10月11日より公開されている。第76回ヴェネチア国際映画祭のオープニング作品上映のために日本を出発し、イタリアのヴェネチアからカナダのトロントまで、地球を1周するような行脚中の是枝監督に話を聞いた。

是枝監督はインタビューの席につくなり、「『ジョーカー』観た?」と自身の映画を差し置いて聞いてきた。ちょうど、『ジョーカー』(公開中)がコンペティション部門で金獅子賞を受賞したというニュースが世界中に流れたところだった。

「『真実』についてのインタビューなのに?って思うかもしれないけれど、関係あるんですよ。ヨーロッパの映画祭であるヴェネチアが、どうしてアメコミ原作のハリウッド映画である『ジョーカー』を評価したか、日本のメディアは検証しているのだろうか?映画祭は各人があらゆる属性を置いてきたところで、みんなが“映画”という旗のもとに集まって、“映画人”という一括に入るからすばらしいんです。映画祭はオリンピックともまた違い、各国の旗を振りながら来るところではない。昨日の舞台挨拶でも言ったのですが、僕は普段から“日本映画”を作っているつもりはなくて、目の前にいる人たちといい映画を作りたいという気持ちで映画を撮っているんです。それでも、日本人監督の作品が異国でどう評価されているかということに人の関心が向いているため、『意気込みは?手応えは?』という質問が多くなってしまいます」。

今年のヴェネチア国際映画祭では、『ジョーカー』の金獅子賞受賞と共に、『An Officer and a Spy(英題)』で審査員特別賞を受賞したロマン・ポランスキー監督についても、議論が起きていた。審査委員長を務めたアルゼンチンの女性監督、ルクレシア・マルテルはポランスキー監督作がコンペ入りした際にも、「世界では女性の権利についての議論が行われているのに、性的虐待疑惑の渦中にあるポランスキー氏の作品を祝福するプレミアに参加することはできない」と違和感を述べている。

マルテル監督の指摘に対し、ヴェネチア国際映画祭ディレクターのアルベルト・バルベラは、「映画祭で審査されるのは映画そのものであり、制作した人物についてではない」と見解を示した。オープニング作品であり、コンペティション部門に属する是枝監督の『真実』も、『ジョーカー』やポランスキー監督作品と同じ舞台で審査される作品として肩を並べている。

国際的なキャスト、スタッフと共に作り上げた国際共同製作映画『真実』
国際的なキャスト、スタッフと共に作り上げた国際共同製作映画『真実』photo L. Champoussin [c]3B-分福-Mi Movies-FR3

ではなぜ、バルベラはこれらの作品をコンペティション部門に選び、審査委員団は賞を授けたのか。是枝監督は、そこを検証することこそが映画祭を取材する意義ではないかと言う。

一方の第44回トロント国際映画祭は、ヴェネチアと違いコンペティション部門を持たない。あるのは上映のチケットを購入し、鑑賞した観客が選ぶ「観客賞」のみだ。今年で44回目を数えるトロント国際映画祭のセレクションは、映画を愛してきた観客を楽しませることが大前提で、映画を通して世界を見ている観客が選ぶ賞は、ある意味世相を表すといってもいい。

是枝監督は思い入れの深いトロント国際映画祭についても語ってくれた。「トロント国際映画祭は特別な映画祭だと思います。映画を作るたびに呼んでいただけて、ここに来るたびに、映画祭は観客を育てる場なんだなと思う。映画祭側が自分たちの役割を意識しているからこそ、こういう映画祭ができるんだよね。映画の上映前に映画祭のディレクターたちが先住民に感謝し、この土地を借りて映画祭が行われているという趣旨のスピーチをする。なんてすばらしいんだろうと思いました。自分がここにいるのはどういうことかと縦軸で捉えることを、なかなかできなくなってしまっていますから。カナダは移民の国で、最初にここに入って来た人も移民であり、先住民の土地を借りているにすぎないという意識を持つことでしか、平和を保つことはできない。こういう感覚を軸に持ちながら、生きていくことが多民族社会には絶対に必要で、それが実現できているから感謝につながる。今後の日本でも同じことができるでしょうか?こういうことを言うと、『映画監督は映画だけ作ってろ』と言われてしまうわけですが(笑)。でも、僕は映画監督ですが、映画だけ作っているわけではないですから。できるだけ声をあげていこうと思っています」

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