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園子温監督が語る、Netflixの劇薬映画『愛なき森で叫べ』の壮絶な撮影裏話

2019年10月11日 18:30

Netflixのオリジナル映画『愛なき森で叫べ』の園子温監督

Netflixのオリジナル映画『愛なき森で叫べ』が、10月11日(金)より全世界190カ国で独占配信中だ。本作は、鬼才・園子温監督が、『冷たい熱帯魚』(10)や『恋の罪』(11)と同様に、実際の猟奇殺人事件からインスパイアされた作品で、園監督らしいテーマとNetflixとのタッグということで話題を呼び、シッチェス・カタロニア国際映画祭2019 ニュー・ビジョンズ部門にも正式出品された。今年2月に心筋梗塞を発症するも、無事復帰した園監督に、本作の見どころをうかがった。

椎名桔平演じる主人公の村田丈は、アグレッシブかつ軽やかな話術で人の心をつかむ、天性の詐欺師だ。彼の手中に落ちた者は監禁され、身も心も捧げる奴隷にさせられる。そんな村田に魅了され、彼を主演にした映画を撮っていく自主映画サークルの若者、シン役を満島真之介が、村田の被害者である尾沢茂役にでんでん、その妻のアズミ役に真飛聖が扮する。

「事件をそのまま描くのではなく、物語に自分の分身を入れようと思いました」

映画青年のシン(満島真之介)たちが、村田を主人公にした自主映画を撮っていく

もともとはドラマシリーズとして撮影されたものを、映画1本のフォーマットに凝縮した本作について、園監督は「連続ドラマなので、シーンを少しくらい伸ばすことも平気でできたから撮っていて楽しかったです。ノリが良ければ、多少のアドリブも入れられたので」と、臨機応変に撮影できた現場に満足そうだ。

本作は、実際に起きた監禁殺人事件の要素に加え、『HAZARD』(02)、『自殺サークル』(01)、『Strange Circus 奇妙なサーカス』(05)、『冷たい熱帯魚』、『恋の罪』など、これまでの園監督作品のモチーフや、監督自身を思わせる登場人物が散りばめられている。例えば主人公の村田も、『冷たい熱帯魚』で、でんでんが演じたシリアルキラーと同じ名字となっており、「ぴあフィルムフェスティバル」の入賞を目指す映画青年のシンは園監督そのものだ。さらにシン役を、かつて園組で助監督経験のある満島が演じている点も感慨深い。

「今回は、事件をそのまま描くのではなく、あくまでも素材の1つとしているので、物語を書くとっかかりとして、自分の分身を入れようと思いつきました。このあとのドラマ版では、もっと僕の分身に近いキャラクターになっています。僕が自主映画を撮っている時、もしも本物の殺人犯に出会っていったらどんな感じになるのか?という設定です。最初はシンの青春ドラマが展開していき、いつ村田が入ってくるのだろう?と、待ちながら書き進めていった感じです」。

主人公は、軽妙な話術で人の心を操る冷酷な詐欺師、村田丈(椎名桔平)

偶然=必然というのはよく聞く話だが、椎名のキャスティングについては、監督がオフの旅行先で会い、「今度、一緒になにかをやろう」という話になってすんなり決定した。「今回の内容なら椎名さんに合っていると思い、すぐにオファーしました。いつもそういう流れで決めます。以前、『冷たい熱帯魚』の時も、吹越(満)さんに出てもらおうかなと思っていて、喫茶店を出たら偶然、吹越さんがいたので、その場でお願いしました」。

今回、椎名演じる村田のモンスターぶりがすさまじい。村田に精神と肉体を捧げていく引きこもりの少女、尾沢美津子役には新進女優の鎌滝えりが、美津子と心を通わせる妙子役を日南響子が演じ、いずれも体当たりな演技を魅せている。若手女優陣はすべてオーディションで抜擢しているが「決め手は演技だけ。引き出しが全部出尽くしている人ではなく、これからの世に出ていくであろう人を見つけるというやりがいがあります」と言う園監督。

【写真を見る】日南響子がセクシーな衣装で体当たり演技を披露

「日南さんは、皆を引っ張ってくれました。彼女のほかは、ほぼ素人に近かったので、大変だったとは思いますが。でも、新人の鎌滝さんも頑張っていて、もともとは森の中で素直に殺されるという役だったけど、おもしろかったので途中から脚本を変更してシーンを追加しました」。

園組は実に流動的なのだ。「役者の演技が下手だった場合は、途中で消えることもあるし、演技がおもしろければシーンが増えたりもします。今回は2か月以上撮影をしているドラマだったから、短期集中型の映画とは違い、考える時間がすごくあったので、撮影が終わると、帰ってからまた2、3シーン書いて、それを翌日に撮影したりもしていましたね」。

「死体の捨て方は、豚を使って試しましたが、すごい匂いがしました」

村田の被害者となる尾沢茂(でんでん)と、その妻のアズミ(真飛聖)

村田に洗脳され、次々と命を落としていく被害者たち。シンたちがその死体を解体し、臓物などを必死に処理するシーンは、身の毛がよだつ。「死体の捨て方は、実際の事件の記述通りに、豚を使って試しました。満島たちと、豚の内臓をジューサーにかけたり、肉を味噌団子にしたりする作業を、省略することなく、全部徹夜でやったんです。すごい匂いがして、この過程はヤバイなと、実際にやってみて思いました。骨を割るところが気持ち悪かったけれど、僕たちは豚だとわかっていたので大丈夫でした」。

そういったNetflixだからこそ流せる戦慄の映像でガンガン攻めつつも、予想外の感動トラップが用意されているトリッキーな作りが、園監督作の真骨頂だ。ただ、園監督自身は「基本的に、主人公を魅力的に仕上げようと思ったことは一度もない。『冷たい熱帯魚』ででんでんさんが演じる村田もそうですが、ピカレスク的な感じにする気はまったくなかったです。ただ、思うがままに脚本を書くことを心がけているだけです」と言い切る。

「もしかして感動するシーンになるかもしれない、と思って書くと、失敗するケースのほうが多い。作り手の意図がバレてしまうから。むしろ、魅力というものは、意図されず、自然に浮かび上がるものだと思っています。僕はただ、邪心なく作るだけで、それ以上でもそれ以下でもない。等身大の映画という言い方はおかしいかもしれないけれど、その映画の器どおりのものを作るだけで、それ以上を装ったり、なにかを加えたりすることはしないです」。

「死体の捨て方は、豚を使って試しました」と言っていた園子温監督

なるほど、言うは易しだが、才能を与えられた作家にしか許されないやり方だ。自ら脚本を書き、撮影現場で自由に撮っていく園監督作は、つまるところ、すべてが園子温という作家の感性にゆだねられている。

そんな園監督は、『Prisoners of the Ghostland(原題)』で、念願のハリウッドデビューを果たす。なんとニコラス・ケイジ主演のアクションホラー映画ということで、規模が大きくなる分、おそらくしがらみも多い気がするが「昔、自分が日本でメジャーデビューした時もすごく大変だったし、そこは“入口”なんだから、しょうがない。いつだって入口はそんなものだろうと思っているから、全然気にしない」と、まったく気負いはなさそうだ。

「僕は今後もとにかく映画を撮り続けるだけ。この1作だけになにかを懸けるということもないし、たとえハリウッド映画でも通過していく1つの作品にすぎない。時折、気合の入る作品が現れるのかもしれないけど、それも偶然来るだけで、自分では特に意識していないです」。

精力的に作品を撮り続ける園監督だが「やりたいものが枯渇することはない。いくらでも出ます」と聞いて大いに納得。きっと園監督の頭のなかでは、無尽蔵にアイディアが広がっているのだろう。ますますの活躍に心が躍るが、まずは劇薬映画『愛なき森で叫べ』をとくとご覧あれ。

取材・文/山崎 伸子

Netflixオリジナル映画『愛なき森で叫べ』
監督・脚本:園子温
出演:椎名桔平、満島真之介、日南響子、鎌滝えり、YOUNG DAIS、長谷川大 / 真飛聖、でんでん
プロデューサー:武藤大司
撮影:谷川創平 美術:松塚隆史 照明:李家俊理
配信:2019年10月11日(金)、Netflixにて全世界独占配信中