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真利子哲也監督が語る映画『宮本から君へ』の“生身の感触”と“ダイレクトな生理”

2019年9月28日 18:41

テレビドラマ版に続いてメガホンをとるのは鬼才、真利子哲也 | 撮影/平川友絵

 

「池松くんと蒼井さんならば、宮本と靖子を創ってくれる、生き切ってくれると強く信じていました」

観た者が思いっきり熱く語りたくなる映画『宮本から君へ』(現在公開中)とは一体、どんな作品なのか? 例えば原作者、新井英樹氏の過去のTweet(=9月11日)より抜粋して補足、再構成するとこうなる。

 

女にとって考えうる限り最悪の出来事、好きな男を殺したくなるほどのことが起きる。それはまた、男にとっても最悪の事態で、酔って寝ている間に起きてしまったのだ。「自分だったら何ができるのか?」──と考えざるを得ない、そんな“愛の試練の物語”に向き合った池松壮亮、蒼井優が渾身の演技で難題を乗り越えてみせ、なおかつ先に向かおうと格闘する人間ドラマ。「初めて読んだのは10代後半、大学生のときで、僕の漫画体験の中でも別格のものでした」と語るのは、監督を手がけた真利子哲也だ。映画化に際しては新井氏から「原作をぶっ壊してくれ」と発破をかけられたのだとか。

 

「僕の商業デビュー作『ディストラクション・ベイビーズ』(16)の試写に来てくださって、その初対面の場でそうおっしゃられたんです。でもまだ、脚本もできていない状況でしたから、“壊す”といっても新井さんがどんな気持ちで言われているのか掴めなくて(笑)。それに、僕としても原作に思い入れがあったので壊すことはともかく、まず“どう形にするか”を先に考え抜きました」

 

【写真を見る】真利子監督と同じく、並々ならぬ原作愛で作品に臨んだ池松壮亮 | ©2019「宮本から君へ」製作委員会

 

男の名は宮本浩、女の名は中野靖子。宮本は文具メーカー「マルキタ」で働く営業マンで、人一倍正義感が強いが超不器用な人間だ。宮本は会社の先輩、神保(松山ケンイチ)の仕事仲間、年上の靖子と恋に落ちる。実は映画化の企画が立ち上がったのは7年ほど前のこと。が、時は流れて昨年、先にテレビ東京の深夜枠で全12話のドラマになった。

 

「最初の想定では映画のみだったんですよ。今回挑んだ宮本と靖子、そして二人の前に現れる巨漢の怪物、真淵拓馬のエピソードをいきなりやろうと。『ディストラクション・ベイビーズ』と同時期くらいには企画としていただいていたのですが、ところがそこから紆余曲折ありまして、テレビドラマのほうが動き出し、それでその前段の“会社篇”を描くことになった。こちらはほぼ全話にモノローグを付けて、伝わりやすい語り口を心がけました。一方、映画では“会社篇”以上に難しいシチュエーションへと踏み込まなければならなかったのですが、原作を愛するキャストとスタッフの思い、その半端ではない熱量に大いに助けられましたね。宮本役にははじめからもう、池松くんしかいなかったです。もちろん、靖子役の蒼井さんも。このお二人ならば、宮本と靖子を創ってくれる、生き切ってくれると強く信じていたので」

 

心揺さぶられる、宮本と靖子の愛ゆえのぶつかり合い! | ©2019「宮本から君へ」製作委員会

「生身だからこそ得られる、人間のダイレクトな生理が描きたかった」 

本作の惹句は「ぶつかり合う愛と愛」。愛にはどちらにも“たましい”とルビがふってある。全編、汗と涙と血……いや、あらゆる体液が溢れて流れ、観る者の心を激しく揺さぶる。

 

「宮本と靖子、二人が真剣に、身も心もぶつけ合うシーンが本当に多いんですけど、『原作漫画に描写されているから再現しよう』というスタンスではなく、人間が実際にやった場合、果たしてどうなるかを各シーンで検証していきました。すると、極めて切実な局面なのですが、客観的に眺めるとちょっと吹き出してしまうこともありまして。宮本が炊飯器を抱えて直接ご飯をかきこみ、口いっぱいに含んでしゃべるシーンなんかもそうで、必死に話すたびにご飯粒がビュンビュン飛びまくるんですよ。靖子は靖子で本気でそれを受け止めていて、真面目なシークエンスであってもなぜか笑えてしまう。この映画で、そんな場面を撮り続けながら、僕は再確認しました。“生身だからこそ得られる理屈ではない感触、人間のダイレクトな生理が描きたいのだ”と」

 

元格闘家、一ノ瀬ワタルもバツグンの存在感! | ©2019「宮本から君へ」製作委員会

 

それは、映画化不可能とも言われた宮本vs拓馬の「非常階段での死闘」でも感じ取れるだろう。拓馬役にはプロ格闘家から俳優に転身した一ノ瀬ワタル。2ヶ月で33キロ増量し、驚異の肉体改造の末に、撮影に臨んだ。現場は実在するマンションの8階。ノースタントのリアルファイトが敢行された!

 

「僕や池松くんにとって『宮本から君へ』という漫画はある意味、バイブル的な存在で、映画にするのであったらどのシーンも中途半端に逃げるわけにはいかなかったんです。靖子が拓馬に襲われるところも。蒼井さんには深く感謝しています。今回はキャストやスタッフ、皆さんの熱い想いを汲みあげてゆくのが僕の仕事だった気がしていて。その想いをどのように作品内へと反映させていくかが大きかったのかなと思うんです。ターニングポイントになったのは、(エレファントカシマシの)宮本浩次さんから『Do you remember?』という主題歌をいただいたとき。あの曲が最後につくと想像したら、すべての歯車が噛み合い、動き出したんですよ。完成作を観終わったあとは昂揚感と気持ち良さが残りました。マニアックに閉じた作品ではなく開かれたものになっていて、それこそ原作のことを何も知らない方にもちゃんと観ていただけるような映画になったなあ、と。そう確信が持てたんです」

 

本作を観届けた原作者(にして、宮本の父役で出演者でもある)新井氏は、こうも述べている。「生きているってのは誰かから誰かへと想像もできない感情を生み出してくれます!!」。そう、これは想像もできない感情……が初めから最後まで、湧き起こり続ける稀有な映画なのであった。

  

「テレビドラマより映画の企画が先だった」と明かす真利子監督 | 撮影/平川友絵

取材・文/轟夕起夫

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撮影/平川友絵| ©2019「宮本から君へ」製作委員会| [c]2019「宮本から君へ」製作委員会| [c] 2019「宮本から君へ」製作委員会| [c]2019「宮本から君へ」製作委員会