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筒井真理子×市川実日子、若き鬼才・深田晃司監督に追い込まれた『よこがお』で、共に覗いた深淵とは?

2019年7月25日 17:30

【写真を見る】8月開催のロカルノ国際映画祭への出品も決まった『よこがお』で共演した筒井真理子と市川実日子 | 撮影/黒羽政士

平穏な人生が予期せぬ出会いで、思ってもみない方向へと変わってしまう……。

オリジナルストーリーによる不条理劇で国際的な映画監督となった深田晃司。新作『よこがお』(7月26日公開)は周囲からの信頼が厚い訪問看護師がある事件をきっかけに、世間から罪なき加害者へと仕立て上げられる一人の女性の転落劇である。ヒロイン、市子を演じるのは『淵に立つ』(16)に続いて深田作品のミューズとなった筒井真理子。その市子を慕いながら、彼女への想いゆえに市子を窮地へと追いやる運命の女性、基子を演じるのが市川実日子。息詰まるサスペンスがどう生まれたか、話を聞いた。

「深田監督の作品は深淵のその淵まで、近づき、覗きに行くことができる」(筒井)

『淵に立つ』で圧倒的な存在感を見せた筒井真理子。深田監督から絶大な信頼感を寄せられており、『よこがお』では脚本段階から監督とやりとりを重ねていった | 撮影/黒羽政士

――お2人は昨年の毎日映画コンクールで女優主演賞(『淵に立つ』で筒井さん)と女優助演賞(『シン・ゴジラ』(16)で市川さん)を共に受賞されました。

市川「その授賞式のときに、深田監督が私の控室にまで挨拶に来てくださって。そんなこと滅多にないからすごくよく覚えているのですが、その直後に今回のお話をいただきました。筒井さんとのこれまでの共演は大河ドラマ「八重の桜」で、そのときは私たち共に会津藩の照姫に仕える身で」

筒井「ああ、そうでした。最後に会ったのは戊辰戦争で(笑)、そのとき以来の共演ですね」

市川「筒井さんはかなり最初の段階から、深田さんからプロットの相談を受けられていたんですか?」

筒井「ある時から、私が演じる市子の、実日子ちゃん演じる基子への復讐劇へと変わったんです。最初に聞いたときは、復讐って、その人への執着がないと出てこない感情だから、私自身、そこまでの心境にいけるか正直、自信がなかったですね。でも、基子役が実日子ちゃんになって、本人を目の前にして言うのはあれだけど(笑)。実日子ちゃんはいつもナチュラルなのが良くて、それが基子という不思議なキャラクターを作り上げた。深田監督も実日子ちゃんには何も言う必要がなかったのでは?」

市川「私は撮影中、すごく複雑な気持ちでした。市子は基子の祖母の訪問看護師で、家族のように親密な関係なんですけど、ある事件を契機に変わって行く。だから、私、撮影の中盤から、筒井さんの姿が見えたら、しゅっと柱や物陰に隠れていたんです(笑)」

タイトル通り、様々な人物の“よこがお”が描かれる本作。市子の二つの異なる“よこがお”に、観客は惹きこまれていく | [c]2019 YOKOGAO FILM PARTNERS & COMME DES CINEMAS

筒井「役の距離感があるものね。私は勝手に、市子は自分の妹にできなかったことを、その代わりとして、基子にしてあげているのかなと思っていました」

市川「市子っていろんなことを引き受けてしまう女性で、そこがある意味、危うい。 それってもしかして筒井さんと相通じるところありますか?なんというか…包容力がないと、『淵に立つ』に続いて、『よこがお』でも深田作品のヒロインをできない気がします。だって、ボロボロになりますよね?」

筒井「追い込みますからね、かなりサディストだと思う(笑)」

市川「加えて、ある種、変態でもあると思う。いい意味で!(笑)」

筒井「じゃなきゃ、こんな物語、書けないよね」

市川「基子と市子が動物園に遊びに行って、そこに吹越満さん演じる市子の婚約者が車で迎えに来るシーンがあります。『駅まで送っていくよ』と吹越さんに言われて、『いいです』と断って、その車が目の前から走り去った瞬間、ある密告電話をかけるんです。私、そのメンタリティが全然わからなくて、深田監督に『今、ここで電話するんですか?』って聞いてしまいました。深田監督は『するんです!』と、ニコニコ顔でした(笑)。そうして演じているうちに、基子は思考や計算で行動しているのではなく、その瞬間、瞬発的に、自覚もなく動いている人なのかもしれないと感じました」

「深田作品は、目の前でただならぬことが本当に起きている」(市川)

独特の空気感をまとう市川実日子。本作でも、一人の女性の運命を狂わせるキーパーソンを演じて強い印象を残す | 撮影/黒羽政士

筒井「こういう女性を生みだす深田さんの頭の中、心の中は計り知れない。でも、ありがたいことに、女性像の見方が常に寄り添ってくれているんですよ」

市川「そうなんです!男性目線じゃなく、どこか女性目線で女性の主観性を描いているから、本当に嫌だという感情にならないんです。でも、ある種、生々しく疑似体験することになるから、大変ですよね。私が鮮明に覚えているのは、市子さんが、事件のことが書かれた週刊誌の記事を基子の母親から見せられるシーンの撮影中のこと。私は2人のやり取りの途中から入っていくのですが、パッと見ると、筒井さんの全身に鳥肌が立っていて」

筒井「本当?自分では全然気づいていなかった」

市川「だから、本当に目の前でただならぬことが起きていると感じました。ただ、起きていることへの受け取り方は、私と基子とは逆なので、そこが難しいところでした」

筒井「そうなの、だから精神的にも、肉体的にも、ボロボロになっちゃう(笑)。でも、どこかで、そこが好きなのよ(笑)」

市川「わあ!やっぱり筒井さんは市子と似ているんですね(爆笑)。受け入れる容量が大きい」

筒井「つい、覗いてみたくなるのよね。深淵の淵がどういうものかを。今回の市子役は、ある事件をきっかけに、職を失ってしまい、婚約者も失ってしまい、最後の頼みの綱であったNPO法人にも見捨てられてしまう。逃げるところがあればいいんだけど、それすらなくて。文字通り、体の中からいろんなものを吐くしかない。そこからが本当の『寄る辺』なんだなと、ようやくわかった気がします」

市子と基子は、遊びに行った動物園でちょっとした秘密を打ち明けあう。その一端がのちに大きな問題へと発展していくことに | [c]2019 YOKOGAO FILM PARTNERS & COMME DES CINEMAS

――もう一人の重要な人物は基子の恋人で、市子が復讐のために近づく和道という男性ですが、演じた池松壮亮さんにはどのような印象を持ちましたか?

市川「私は池松さんと同年代に見えるか、かなり心配でした(笑)」

筒井「私も池松さんとはびっくりするくらい年が離れているのに絡みのシーンがあるので、ごめんなさいっていう感じですが、彼との最初の撮影が、先程にも出てきた、体の底から吐くシーンで、それも本当にごめんなさい。でも、すごく大人でした。子どものころから演技をしていることもあって、いろんな作品を拝見しても、全部、自分のものになっているのがすごい。撮影中の私は準備、準備で会話をする余裕もなかったから、これからいっぱい、話したいですね」

市子は、“リサ”と名乗り、基子の恋人で美容師の和道に接近する | [c]2019 YOKOGAO FILM PARTNERS & COMME DES CINEMAS

――市子も基子も映画の始まりと終わりでは、同一人物とは思えないほど顔も環境も大きく変貌しますが、その変化を演じ終わってどう感じられますか?

市川「基子はずっと自分のほしいものに素直に行動している人だったんだなと思います。それが、自分の事より、人の事を考える市子さんと出会うべくして出会ってしまい、そして起こるべきことが起きてしまった。お互い違う極の強烈な磁石を持っている二人がそろってしまったことが、不幸なことのようで、それが生きる光にもなっているように感じました。あと、タイトルにもあるとおり、よこがおって片方側しか見えない。実は映画の中では重要な場面で、片一方からは見えている表情も、もう片方の方からは逆光だったり、光の加減で見えていないということが描かれています」

筒井「ええ、一方しか見えていないから、起きてしまう出来事、起きなかった出来事がありますよね。お互いが見えていたら、どうなっていたのか。私はラストのバージョンの市子が一番好きで、その時の彼女は全部、ニュートラルで、ストンとすることだけして生きている。すごく新しいというか、今までに見たことがない映画が出来上がった気がして、みなさんには市子の気持ちになって、ジェットコースターに乗っているように旅してもらえるとうれしいです」

劇中では、複雑な関係を演じた2人だが、実際には姉妹のような仲のよさ!笑いの絶えない取材だった | 撮影/黒羽政士

取材・文/金原由佳

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