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“小津カラー”復元の舞台裏を徹底解説!「どこまで真摯に向き合えるかが重要」

2019年2月24日 15:45

『東京物語』(53)や『秋刀魚の味』(62)など、いまなお世界中の映画ファンや映画人を魅了しつづける日本映画界の巨匠・小津安二郎監督が、大映株式会社で唯一手がけた名作『浮草』(59)の4K復元版が24日、角川シネマ有楽町で開催中の「京マチ子映画祭」にて上映。それに合わせて、同作のデジタル修復作業に携わった株式会社IMAGICA Lab.のレストレーションスーパーバイザーの中村謙介と、アーカイブコーディネーターの水戸遼平が「映画修復の裏側」をテーマにトークショーを行った。

現在開催中の「京マチ子映画祭」でトークショーが開催!

登壇するやいなや「『浮草』は仕上がりも取り組みも含めて自信作です」と力強く語った水戸は、フィルムに記録されている情報量の深さを明かした上で、いかにして映画が修復されていくのか丁寧に解説。まずフィルムを探すことから始め、そのチェックをしてからフィルムのスキャニング作業を施し、それをデジタルデータにすることでようやく、すべての作業がスタートラインに立つとのこと。

重要な工程のひとつである「デジタル画像修復」について、そのスペシャリストである中村からは「古い映画にある白いポツポツした点がフィルムに付着したゴミで、そういったものを除去していく」ことや、物理的なえぐれをデジタル上で補完することや、退色したフィルムの明るさ、パーフォレーション(フィルムの縁にある送り穴のこと)の欠損で生じる微小な揺れを直していくことなどの修復点が語られる。

近年では自動的にゴミを除去するツールがある一方、様々な弊害があるようで「自動的にゴミを認識して除去するだけで1週間くらいかかってしまった。けれどそれで終わりじゃないんです。ゴミじゃないものも取ってしまうんです」と『浮草』の有名な雨のシーンで、雨粒のひとつひとつがゴミとして認識されて除去されてしまったものや、釣りのシーンで遠くを飛んでいる鳥の姿が消えてしまったことなどを例に挙げる中村。

「自動的に除去しても、必ず人の目でチェックする。機械は(こちらが)意図しないこともやってしまうので、あったものを消してしまうことがないように元に戻す工程も必要。それにすごく時間がかかります」と、その苦労を明かし「映画修復の未来を考えたら、ゆくゆくは僕の仕事がなくなればいいのになって思っています。自動的にすべてのことができれば、その分多くの映画を後世に残すことができる」と、映画文化を支える技術の進歩に期待を募らせた。

【写真を見る】株式会社IMAGICA Lab.の技術者が解説!“小津カラー”を復元させた途方もないプロセスとは?

さらに、画像修復を済ませた映像の色を整えていくグレーディング作業について水戸は「50年前の映画がどのような色でスクリーンに映っていたのか、また監督はどの色にOKを出したかが非常に重要。でも誰も当時の記憶がないことが多い。存命ならば当時のカメラマンさん、もしくはその助手だった方をお呼びして、ご意見をいただきながら作っていく」と、その難しさを明かす。

『浮草』の修復の最大の肝となったのは“小津カラー”とも言われるアグファカラーの再現。その工程は苦労の連続だったようで「アグファフィルムは小津監督の特徴的な“赤”を形作る上で重要だったフィルム。でももうアグファ社はフィルムを作っていない。国立映画アーカイブさんに眠っていたプリントはメーカーが違っており、KADOKAWAさんが保存していたプリントは色が抜けていた。しかも監修に立たれた方もアグファフィルムで撮影をしたことがない。結果、小津監督はこんな朱色を作ったのだという漠然とした考えだけで色を直さなければならなかった」。

そして「もう一歩深くアグファカラーのことを考えなければいけない」と様々な資料を当たり、『浮草』公開の前年に掲載された日本映画技術協会の「映画技術No.82」に掲載されたアグファカラーの分析記事にあった、色の数値を参考にカラーチャートを作成したという。「この情報を元にして、アグファフィルムがどのような色であったのか、どのような変化を体現していたのかを落とし込みながら仕上げていきました。過去に誰かが『正しい』と判断した映像を復元するという観点において、我々はどこまでそれに真摯に向き合えるかが重要」と知られざる苦労に込められた、驚くべきプロ意識の高さを感じさせた。

他にも今回4K修復版が本邦初公開となる溝口健二監督の『赤線地帯』(56)と、『浮草』の修復前後の映像を比較上映しながら解説したり、フィルムのグレイン(粒子)や音声、すでに復元が行われた市川崑監督の『おとうと』(60)で取り入れられた“銀残し”という技術など、映画修復の様々なポイントを語っていく2人。最後に水戸は「修復とは伝統の技術と最新の技術を駆使して、公開当時の輝きを呼び戻すことと、もう一度作品を世に送り出すことがすべて。ご覧いただける方がいなければ蘇ることはない」と語り、中村も「観てもらうことが大事。古いという印象を与えることなく、作品に集中して観てもらえるように作業を行なっていく」と強い想いを述懐した。

「京マチ子映画祭」は3月21日(木・祝)まで角川シネマ有楽町で開催中! | [c]KADOKAWA

現在開催中の「京マチ子映画祭」では、今年でデビュー70周年を迎える大女優・京マチ子の出演作32本を一挙に上映。ヴェネチア国際映画祭で受賞を果たした黒澤明監督の『羅生門』(50)や溝口健二監督の『雨月物語』(53)、カンヌ国際映画祭パルムドールや第27回アカデミー賞で名誉賞と衣装デザイン賞の2冠に輝いた衣笠貞之助監督の『地獄門』(53)など、日本映画屈指の名作から知られざる傑作までラインナップ。3月21日(木・祝)まで角川シネマ有楽町で開催された後、各地で順次開催される。

取材・文/久保田 和馬


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