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スタジオポノックの西村プロデューサーに訊く「アカデミー賞とこれからの映像業界」

2018年11月17日 11:30

スタジオポノックの西村プロデューサーが語るアカデミー賞とこれからの映像業界とは

アメリカ、ロサンゼルスのハリウッドで10月18日から21日まで行われた第2回「アニメーション・イズ・フィルム映画祭」にて、スタジオポノックによる短編シリーズ『ちいさな英雄 -カニとタマゴと透明人間-』のワールドプレミアが行われた。映画祭に合わせてロサンゼルスを来訪したスタジオポノックの西村義明プロデューサーにインタビューし、短編映画制作にかける思いと、アカデミー賞について話を訊いた。

短編企画の立ち上げは、米林宏昌監督の『メアリと魔女の花』(17)のデジタル配信に向けたスピンオフ企画の提案があり、そこからスタートしたという。当初は、今年亡くなった高畑勲監督の短編作品も企画に入っていた。短編を制作するにあたり西村プロデューサーの頭にあったのは、「長編映画ではなかなか扱えない題材と表現で、長編映画では実現が困難な挑戦をする」ことだった。

「通常、長編アニメーション映画を作る時は、多くの方々が共感してくれるか或いは、どう作れば作品的にも商業的にも成立するかを考えます。しかし、短編の場合ですと、限られた時間で何かを物語るわけですから、物語の省略化や映像の象徴化が行われるので、必然的に観客それぞれの経験や想像力を当てにします。結果として、共感できる人とそうでない人に分かれてしまうんですが、今回は、お客さんのうち誰か一人でもいい。心の深くで共鳴してくれるような作品を作ろうと。また、その題材を伝えるのに従来の表現ではなく新しい表現が相応しいならば、恐れずにやろうという挑戦でした」。

ハリウッドの10月は来年のアカデミー賞を見据えた賞レースが始まる時期。本作は、過去にも『かぐや姫の物語』(13)、『思い出のマーニー』(14)で長編アニメーション部門ノミネート経験のある西村プロデューサーにとって、短編アニメーション部門への挑戦でもある。

「3作品すべてノミネートされたら嬉しいんですけどね(笑)。アカデミー会員として、過去2年くらい短編アニメーション部門の審査もしていますが、去年の短編部門の『Dear Basketball(原題)』は、とても優れていましたし、おもしろかった。短編作品には学生が作ったものからプロフェッショナルが作ったものまで、ストップモーションアニメから3DCGまで、本当に様々な作品があって勉強になるんです。でも、手描きのアニメーションで良質なものはそれほど多くはないと感じていました。短編作品を作れる土壌を持った制作会社は多くないですから。短編はお金が儲かるものではないし(笑)。ただ、ピクサーやスタジオジブリのように大きなスタジオでなくとも、優れた才能たちが寄り集まって自分たちの作品作りで挑戦する場を持つことができるとしたら、技術も才能も次へと繋がっていくかもしれない。小さなスタジオだけどやってみようよという気持ちはありました」。

第90回(18年度)のアカデミー賞より改正となった投票ルールにより、日本の作品や小さな規模の作品はノミネートされることが厳しくなった。以前はアニメーション部門の会員によってノミネート作品が選ばれていたが、全会員による投票に変更され、結果的に大規模公開される有名作品が選ばれる傾向にあるからだ。一方、短編アニメーション部門は以前と変わらず、アニメーション部門会員によってノミネート作が選ばれ、会員全員で本選投票を行う。西村プロデューサーは、「賞は誰かからのプレゼントみたいなものです。アカデミー賞がプレゼントなら、スタッフはみんな嬉しいでしょうね」と笑いながらこう続ける。

「うちは吹けば飛ぶような会社ですが、僕が代表も務めているので、難題だとしても『これはやろう』と言える立場にあります。高畑監督を含む4人の才能たちが本気で作る15分の短編を観たいと心から思いましたし、彼らの才能は世界からすでに評価されていますから、賞レースに参戦してもおかしくないとは思いますよ。ディズニーとピクサーが受賞し続ける部門ですがなのに、何年かに1度は日本からポノックのやつらが来るぞ、なんて脅かしもし、期待もしてくれるような作品を作れたら嬉しいですね。優れたアニメーション映画はディズニーとピクサーばかりじゃありませんから」。

いま、ハリウッドを中心に世界ではNetflixやAmazon、Huluなどの配信事業主の台頭により、映像業界は激動の時代を迎えている。アニメーションスタジオを経営する身として、プロデューサーとして、現状をどう捉えているのだろうか?

「アニメーションだけではなく、映像だけでもなく、すべての娯楽コンテンツが飽和しています。テキストも、映像も、音も。配信に未来があるというのはもちろんその通りだけれど、一方で彼らは巨額の資金を元に全世界を囲い込もうとしている。下手すると5年、10年先まで特定スタジオを抑えてようとしている現状です。でも日本においては、アニメーションスタジオはそこまで大きくない。これからさらに作品が増え続ければ、いまいる人間だけでは作れませんから、スタッフの奪い合いになるでしょうし、過度な競争状態になるだろうなとは思います。少子化ですし、人材も増えないですよね。色々な変化が待ち構えているし、離合集散もあるでしょう。配信事業者から高額予算で請け負ったとして、優れたスタッフがいなければ、予算が上がってもクオリティは上がらない。クオリティを担保するのは人ですから。対策なんて無いです。アニメーションって商業的である一方、アートでもあるので、製造業的な視点で考えて、労働力を集めればよいということではありません。自分たちが作りたいものを共有して、作品をしっかり作る。同じ志を持った人間たち、才能たちが集まって一作品一作品をきちんと作れるように悪戦苦闘するしかないです」。

「対策はない」とはっきり断言する西村プロデューサーだが、彼のアニメーションプロデューサーとしての指針は、どんなところにあるのだろうか。

「作りたいものがはっきりしている或いは、作りたくないものがはっきりしている、ということはあるかもしれません。中心にあるのは、子どもたちに大切な何かを伝えられているかどうか。それは、大人向け、子ども向けという括りで作品をつくるということとは違います。この短編3作品でも、考え方はまったく変わっていません。『透明人間』を見て、『これ、大人向けなんじゃないですか?』とも言われましたが、子どもはこの作品を見て本当に色々なことを感じてくれていますよ。子どもたちが本当に享受できる作品を作ったとき、その作品は必ず大人たちの心にも届くと信じて作っています。映画人って、作りたい何かがあるから映画人なんだろうし、困難なことですけれど作りたいものの矜持は持ち続けたいと思っています」。

取材・文/平井伊都子

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