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73年の“世紀のテニスマッチ”を、大統領選の最中に映画化した意義とは?監督夫妻にインタビュー

2018年7月15日 22:45

ロンドンで開催中のウィンブルドンも大会最終日。男子シングルス決勝が対戦中だ。日本人選手としては23年ぶりとなるベスト8に進出した錦織圭の奮闘や、6時間36分を要した準決勝の激戦などのニュースも飛び交った。そんななか、映画『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』が公開中。本作は73年に行われたテニス史上で最も有名な試合“バトル・オブ・ザ・セクシーズ” (性差を超えた戦い)を描いた実話劇だ。

ビリー・ジーン・キング役にはエマ・ストーンが、ボビー・リッグス役にはスティーヴ・カレルが扮した。彼らのプロとしての矜持、チャーミングな人間らしさ、そして白熱のテニスマッチをリアリティたっぷりに映像化したのがヴァレリー・ファリス&ジョナサン・デイトンだ。来日した彼らを直撃して、撮影手法から本作に込めた想いまでを聞いた。

インタビュー中も仲睦まじい様子の監督夫妻 | 撮影/木村篤史

フィルムで撮れる可能性がそこにあるのなら、この作品ではそれを選択しない理由はなかった

――06年に『リトル・ミス・サンシャイン』、12年に『ルビー・スパークス』、そして今回の『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』。ほかにも広告やテレビの仕事をされているのは存じ上げてますが、お二人は映画監督としてはかなり慎重に企画を選ばれている印象があります。

ジョナサン・デイトン(以下、デイトン)「僕は映画を作ることをよくタトゥーを彫ることに喩えるんだ。一度作った映画は、自分のキャリアから一生消えない。だから、どうしても慎重にならざるを得ないよね。それと、一つの映画を作ろうとすると2年から3年はその作品だけに人生のすべてを捧げなくてはならない。だから、その間ずっと自分たち自身が強い興味を持続できそうな題材以外には手を出さないようにしているんだ」

ヴァレリー・ファリス(以下、ファリス)「自分たちが思い描いていたキャストが集められなかった、脚本の仕上がりに満足がいかなかった、そういった理由で私たちの手を離れた作品もいくつかあった。キャストも脚本もほかのスタッフもすべての状況が万全に整ったから、『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』はこうして実現したの」

【写真を見る】全世界で9000万人もの観客がテレビ中継で目撃した、歴史的な一戦! | [c]2018 Twentieth Century Fox

ーーお二人の映画は、監督としての強固な作家性よりも、作品ごとの題材に合った作風やスタイルを優先しているように思えます。

ファリス「その通り。映画にとって最も大切なのはストーリーで、私たちはそのストーリーに合うスタイルを作品ごとに探している」

デイトン「一つの映画を撮るためには、数えきれないほどのアプローチが存在している。その方法をいろいろ考えること自体が、僕たちには楽しくて仕方がないんだ。『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』は舞台が70年代ということもあって、今回の作品では僕らが70年代に観てきた数々の作品のアプローチを参考にしている。ある部分ではロバート・アルトマンの『ナッシュビル』を参考にしたし、ジョン・カサヴェテスの作品を参考にしたところもある。まるで70年代の映画のように35㎜のフィルムで、ビンテージのレンズを使って、長回しの撮影も多用したりして。そういうことすべてが僕らにとって創作意欲をかきたてるものだったんだ」

ーーいまの時代に35mmフィルムで撮るというのは、コスト面においてもかなりハードルが高かったと思いますが。

デイトン「フィルムで撮れる可能性がそこにあるのなら、この作品でそれを選択しない理由はなかった。NetflixやAmazonが映画界に参入してきたこの時代に、フィルムで映画を撮るというのは、それだけでも旧来の映画スタジオが持つ大きな価値につながっている。クリストファー・ノーランやクエンティン・タランティーノのおかげで、コダックもフィルムの供給をサポートしてくれるようになったしね」

ファリス「今後も題材によってフィルムかデジタルかは選択していくつもり。選択できるということがなによりも大切だと思う。今回の冒頭のシーンでは、1秒間6フレームでフィルム撮影した荒い映像を撮っていて、同じような効果はデジタルでも工夫すればできるけれど、それはやっぱりフィルムとは質感が異なるの。昔の映画を観直して驚かされるのは、いかに多くの監督たちがフィルムを使って実験的な手法を試みていたかということ。果たしていま、デジタルでも同じように実験的なことが盛んにおこなわれているのだろうか。少なくとも、私にはそうは思えない」

マーガレット・コートとの対戦も劇中で再現されている | [c]2018 Twentieth Century Fox

トランプやワインスタインのニュースが流れているアメリカの日常の中で、今作を世に問う困難はあった

ーーこの作品はトランプとヒラリーの大統領選の最中に製作されていたわけですが、選挙の結果が違っていたら、もしかしたら観客の見方も違っていたかもしれませんね。

ファリス「本当は大統領選の結果が出る前に公開されるスケジュールで製作が進んでいたの。でも、いろいろと制作上の遅れが出て、結局トランプが大統領になってからアメリカで公開されることになった。もちろん映画は映画で現実の世界とは違うものだけれど、もし予定通り大統領選の最中に公開されていたら、確かに受け止められ方は違っていたと思う」

ーーただ、この作品に深みを与えているのは、スティーブ・カレルがとてもチャーミングに、ボビー・リッグスのような困った男性を演じているところだと思いました。

スティーヴ・カレルはリッグスを「有能なテニスプレーヤーであり、エンターテイナーだった」と評する | [c]2018 Twentieth Century Fox

デイトン「実際にボビー・リッグスという人間はとてもチャーミングで、興味深い人間なんだ。彼は決して悪魔のような男性至上主義者ではなく、根っからのエンターテイナーで、ハスラー(ペテン師)なんだ」

ファリス「確かにボビー・リッグスはかなり保守的な考えの持ち主ではあったけれど、その言動はいつも演技がかっていて、とても複雑な内面を持った人物だった。そんな難しい役をスティーブは見事に演じきってくれた」

ーーボビー・リッグスは、トランプや、それこそハーヴェイ・ワインスタインのような男性とは違うということですね。

デイトン「それはそうなんだけれど、毎日のようにトランプやワインスタインのニュースが流れているアメリカの日常の中で、このようなテーマの作品を世に問うのはなかなか困難ではあった。特にこの2年間、世の中の流れはとても早くなってきている。だから、もしそんな“いま”を捕えようとして映画を作り初めても、映画が公開される頃には世の中はまたすっかり変わっているだろうね。だから、これから映画にますます必要とされるのは、10年後も20年後も愛され続けるような普遍的な映画を作ることなんじゃないかと思う。『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』がそういう作品になっていくことを願っているよ」

ファリス「いまは世の中全体がますますリアリティショーのようになってきていて、映画がそれに真っ向から対抗しても、大衆の日常的な娯楽としては勝ち目はないと思う。それに、きっとそれは映画の役割でもない。以前、私たち映画人は“人々は一体何を求めているのか?”を一生懸命考えながら映画を作ってきた。でも、一昨年の大統領選挙の結果を見てもわかるように、いまではその前提となる“人々とは一体誰なのか?”ってこと自体が見えなくなってしまっている。だから、私たちはまずそのことを考えなくてはいけないのかもしれない」

デイトン「『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』は決して世の中を男性と女性、あるいはレッド・ステート(共和党支持州)とブルー・ステート(民主党支持州)に分断するような作品ではないし、それは作品を観てもらえればわかると思うけどね」

ーー最後に、夫婦で映画を撮るのは、いろいろと大変じゃないですか?

ファリス「どうしても普通の夫婦よりも一緒にいる時間は何倍も長くなるわね(笑)。でも、映画の現場でずっと一緒に困難な問題を解決してきたから、家庭内でも問題を解決することがどんどん上手くなってきたような気がする(笑)」

デイトン「実際に、いまでも毎日のように彼女には驚かされているんだ。そこには、こうしてずっと一緒に映画を作ってみないとわからなかった彼女の新鮮な一面もたくさんある。だから、いまの環境にはとても感謝してるよ」

取材・文/宇野維正


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