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川村元気、佐藤雅彦らが世界に仕掛けた短編映画。“数学的理論”を“ヒューマンドラマ”に導くまで

2018年6月03日 20:00

5人の監督。写真上段は「c-project」の面々、下段左は川村元気、下段右は佐藤雅彦

日本映画として21年ぶりのパルムドールを受賞した『万引き家族』(6月8日公開)の先行公開が始まった。「監督週間」にアニメーション作品で唯一選出された『未来のミライ』(7月20日公開)など、日本映画のニュースが多数飛び交った第71回カンヌ国際映画祭だったが、短編コンペティション部門でも、映画の可能性を押し広げる日本映画があった。

多くの人気映画を手掛けてきたプロデューサーの川村元気と、東京藝術大学の教授でありクリエイティブディレクターの佐藤雅彦率いるc-project(関友太郎・豊田真之・平瀬謙太朗)がコラボレーションした短編映画『どちらを選んだのかはわからないが、どちらかを選んだことははっきりしている』だ。残念ながら受賞は逃したが、上映における反応は上々。世界中から集まった映画評論家と映画ファンが集うカンヌ映画祭の空気を体感した5人の話を振り返る。

数学的理論をテーマに始まった短編プロジェクト

川村「僕と佐藤さんが対談する機会があったんです。佐藤さんは4年前に『八芳園』という作品で、カンヌ短編部門でノミネートされていて、映画に興味があります、一緒になにかやりませんか、という事になったんです。映画然としたものを作るよりも、映画とはなにか?について考えるプロジェクトと言えるでしょうかね。映画の作り方を手法から考えようという事で、1年くらいずっと議論していくなかで、佐藤さんのほうから今回のテーマである“Duality=双対性”という数学的理論を使った映画を作ってみようというご提案をいただいて始まったのが、今回のプロジェクトです」。

そもそも2014年にc-projectが発足したいきさつについて、佐藤教授が語る。

佐藤「川村さんに出会う前に、c-projectが発足しました。東京藝術大学大学院の佐藤研究室の卒業生メンバーで、僕が言うのもなんですが、彼らは非常に優秀な学年だったんです。普通の学生ならば卒業制作で手一杯なのに、彼らは9月でめどが立っていて、それで僕がc-projectを持ち掛けたんです。せっかくだから皆でなにか作ろう、と言って。“c”はカンヌの“c”。カンヌを目指すプロジェクトとして、短編の『八芳園』を制作しました」。

これがその年にカンヌ映画祭の短編部門にノミネートされたのだ。佐藤教授が続ける。

佐藤「『八芳園』を作ったあと、新しい手法で映画を作るというチャレンジをしようということで、プロジェクトを続けていました。そんな時に川村さんとの対談があり、川村さんは映画のプロだから、彼と組めばより強いプロジェクトができるのでは、と思ったのです」。

短編映画『どちらを選んだのかはわからないが、どちらかを選んだことははっきりしている』イラスト版ポスター

彼らが追求するのは、表現手法。『どちらかを選んだのかはわからないが~』は、数学的観念の双対性を実写映画に移行する試みだ。

川村「まず“Duality“というテーマが出てきて、それをどういう形で物語にしていこうかと議論しながら脚本を書き上げました。あるシングルマザーと息子が、父親であろうという人に会いに行く…という物語にしていったというのが流れです。大きかったのはキャスティングでしょうか。一歩間違えば論理ゲームのようになりかねない脚本を、いかにしてヒューマンドラマ、映画として着地させるかが重要でした。黒木華さんが出てくれたのは、すごく大きかったです。彼女が演じることで、ある種の“ゲーム性”という地点から“人間性”という地点にジャンプアップできたのかもしれません」。

柳楽優弥と黒木華、世界的な評価のある俳優の出演

【写真を見る】主演は女優の黒木華。息子を持つ若い母親役を演じている(短編映画『どちらを選んだのかはわからないが、どちらかを選んだことははっきりしている』)

父親役は、『誰も知らない』(04)でカンヌ最優秀主演男優賞を獲った柳楽優弥。世界的な評価のある2人が、実験性の高い映画に出ているというのが重要なポイントだそう。

川村「黒木さんはベルリン国際映画祭の女優賞を、柳楽くんはカンヌで男優賞を獲っています。そういう2人に、すごく助けてもらいました」。

本作がc-projectのカンヌ映画祭ノミネート2作目となるわけだが、これからも3作目、4作目と短編を続けていくのか、それとも長編の構想もあるのか。まさにメンバーで相談しているところだそうで、「短編のおもしろさというのも勿論あるのですが、長編映画へのあこがれもあるのです。そこで話し合いをしているわけです(笑)」と佐藤が微笑む。

映画の新たな可能性を見つけること、信じること

いざ、目指したカンヌ国際映画祭の土を踏んだ感慨は?

豊田「チーム全体の認識として、カンヌは映画の新しい可能性を見つけようという姿勢がある。そこを信頼して、沈潜的なものを作れば、評価してもらえるんじゃないかと思ったんです。自分たちが映像において興味がある方向性と一致しているので、常に僕らの目標としてカンヌというものがあるんじゃないかと思っています」。

関「カンヌに来てみて、こんな視点があるのか、というような、見たことのないような映画の側面が求められているんだなと感じました。それが物語の視点だけではなく、映像表現の見せ方や手法において出てくるのを、すごく楽しみにしている。そういう雰囲気が感じられたんです。それに一番感動しました。その欲求をもって(映画を)観ている人たちがこれだけいるんだ、って。受賞はできなかったので、また今度はすごいものを作って戻ってきたいという事を前回感じ、戻ってこれたのでそれがうれしかったです」。

佐藤「新しいものを見つけようと言う意思を感じるのがカンヌです。もうひとつ全く別の言い方をすると、映画の歴史を作るという気持ちが凄く強いです。新しい枠組みのものが出た時にそれが歴史になるわけで、その歴史を作るんだというのも意思だと思います。カンヌってそういうものだと思います」。

第71回カンヌ国際映画祭での舞台挨拶の様子

川村「今回プロデューサーとして作った『未来のミライ』も監督週間に選ばれました。映画の歴史は120年ちょっとで、映画の可能性をまだまだ感じているのがカンヌ国際映画祭なのではないか、と思いました。まだ表現していない地平があるんじゃないか。それを佐藤さんの言葉を借りれば“新しいもの”ということになるんでしょう」。

平瀬「川村さんは映画のお仕事をされていて、まさに大きな渦の中にいらっしゃる。自分たちはその外側から新しいものを開拓したいと言う気持ちが大きくて、カンヌはそれを世の中に問うための場所としてよく機能していると思うんです。逆にカンヌがないと、どこでどうやって発表していいのかわからない。商業ベースに乗るわけでもないので。そういう意味で大きな受け入れ先として、自分の中に存在するなと言う気がします。カンヌがあるから作れるという気持ちです」。

取材・文/高野裕子(yuko takano)

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