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北原里英と白石和彌監督、『サニー/32』ラスト変更への思いを告白

2018年2月16日 16:45

『サニー/32』の北原里英と白石和彌監督

今春にAKB48グループを卒業すると発表したNGT48のアイドル“きたりえ”こと北原里英。彼女がアイドルとして放つ最終兵器となるのが、『凶悪』(13)や『彼女はその名を知らない鳥たち』(17)の白石和彌監督作『サニー/32』(2月17日公開)だ。北原と白石監督を直撃し、「何度も死にそうになった」と言う極寒の新潟で行われたロケを振り返ってもらった。

2004年に長崎で起きた佐世保小6女児同級生殺害事件から着想を得たという本作。11歳の女児が同級生をカッターナイフで殺害するという衝撃的な事件から14年後が描かれていく。北原が演じるのは、ある日2人の男に拉致監禁される24歳の中学校教師・藤井赤理。男たちはネットで神格化されていく事件の加害者女児・通称“サニー”のカルト的信者だった。

最初に白石監督から「寒さは覚悟しておいてください」と言われていた北原だったが、2月の新潟は拷問級の過酷さだったようで「初めて寒さで泣きました」と激白。

一番辛かったのは、サニーが監禁されていた小屋を飛び出し、薄いドレス1枚のままで雪の中をかき分けてひらすら歩いていくというシーンだったと言う。「ゴールが見えなくて本当に辛かったです。監督には『カットがかかったら助けに行くから』と言われていましたが、深い雪でスタッフさんもすぐには来られなくて。引きで撮っていたから、スタッフさんの位置が遠すぎたんです」。

白石監督は「一応、通り過ぎたら斜面になっているところで助けに行ける予定だったんですが、真ん中で立ち止まっちゃったので」と苦笑い。

北原は「本当に体力の限界を迎えました」と改めて言う。「普段は絶対に最後まで頑張るタイプなのですが、もうこれ以上歩けないと思いました。2カメさんが一生懸命助けに来ようとしてくださったのですが、歩くと埋まってしまうので全然来られなくて。そのうち、スタッフさんの1人が来てくださり、自分の長靴を貸してくださいました。私、裸足だったんです。なんて素敵な方なんだと思いました。まさに究極の吊橋効果ですね(笑)」。

白石監督にそう恨み節を吐きつつも、北原は白石組に参加できた喜びを心からかみしめているそうだ。「撮影期間で白石監督のことをさらに大好きになりました。どんな大変な撮影でも、みなさん文句を言わずについていくのは、きっと白石監督のお人柄のおかげかなと。もともと監督のファンでしたが、一緒にお仕事をしたら、お人柄も素晴らしくて、白石監督のために頑張らなくてはという思いになりました」。

撮影はほぼ順撮りで撮っていったが、後半に進むにつれて、様々な思いが溢れ出したという北原。「実は台本の最終稿とはまた違うラストを迎えました。すごく救いのある物語になっています」と言うと、白石監督も「本当はもう少し前で途切れている終わり方でした」とうなずく。

いろんなことで押し潰されそうになっている生徒・向井純子(蒼波純)と必死に向き合おうとしてきた赤理。彼女は少年少女の犯罪について「どうしたら止められた?」と声を上げていく。北原は撮影をしていくうちに感情が高ぶり、役柄との垣根を超えていったそうだ。

「生徒役の蒼波純ちゃんとは撮影初日に会って以来でしたが、その会えなかった時間があるからこそ、本当に教え子のような感覚になれたんです。だから私自身も赤理と同じく、彼女を救いたい、抱きしめたいと心から思うようになっていきました」。

白石監督はラストの変更について「やろうとしていることはぶれてないんですが、ちゃんとそのことを見せるか見せないかを考えてみたんです」と語る。「それで、そういう子を抱きしめてあげることができれば、なにか世の中が変わるんじゃないかと思うようになりました。そうであってほしいという幻想でもあります」。

これまで社会の暗部にメスを入れ、凶悪なものを世にさらけ出してきた白石監督だが、今回のヒロインはあがきつつも、一歩前に踏み出す勇気を見せる。

「ネット社会もそうですが、自分と全く関係のないところで誰かを傷つけたり、文句を言ったりしている。殺人犯が出てきたら、それを揶揄して持ち上げたり落としたりもする。それはそれで暴力なんだけど、違う意味で肉体の痛みを感じることが、いまの社会で一番欠けていることだと思うんです。本作はそういうことへのアンチテーゼですね。

例えば、自分の母親に少しずつ毒をもっていき、弱っていく過程を日記に書いている少女が横にいたとします。それをどうやって止められるかなんてことは全く想像がつかない。でも、少しずつ思いを馳せていけば何か糸口がつかめるんじゃないかとか。自分の娘が、この映画のような殺人犯になった時、親として大人として何ができるんだろうかと考えたりする。そこがこの物語の発端でもあります。果たして『何もできなかったよね』で終わらせていいのかと。だから、僕たちからのメッセージとして、藤井赤理には事件のあともいろんな人を抱きしめられる人でいてほしいと思い、最後にそういうシーンを作りました」。まさに、本作を観たあとには希望めいた何かが心に灯る。

北原は「この映画をもって、AKB48グループを卒業できることが自分にとってはとても心強いです」と胸を張る。

「白石監督は本当に素敵な方で、この先もう一度白石監督とお仕事ができるのであれば、『1回やったから』というような情だけで採用していただくのではなく、私が出ることが白石監督作のためになるような女優となって参加させていただきたい。この映画には、そういった女優としての目標も併せて、いろんなものをいただけたと思っています」。

取材・文/山崎 伸子

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