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アカデミー賞大本命『スリー・ビルボード』は現代アメリカを象徴する驚異的な作品![最速レビュー!東京国際映画祭]

2017年11月02日 10:19

特別招待作品として日本初上映となった『スリー・ビルボード』 | [c]2017 Twentieth Century Fox

9月にカナダのトロントで開催されるトロント国際映画祭の観客賞受賞作は、2008年のダニー・ボイル監督『スラムドッグ$ミリオネア』を皮切りに、9年間で3作がアカデミー最優秀作品賞に輝き、5作が作品賞にノミネートされている(残りの1作はアメリカ公開がされず、考慮資格を満たしていない)。

そしてその8作すべてが監督賞の候補にも挙がるとなれば、必然的に今年受賞したマーティン・マクドナー監督の『スリー・ビルボード』は、現地時間の来年3月4日に授賞式が行われる第90回のアカデミー賞で主役を張ることはほぼ間違いない。

11月10日の全米公開を前に、現在開催中の第30回東京国際映画祭で特別招待作品としていち早く日本にお目見えした本作は、最初から最後まで一貫してトーンを崩さない端正なシナリオと、主演を務めるフランシス・マクドーマンドの『ファーゴ』(96)を超えるほどの怪演に、脇を固める名優たちが追随。まさに2017年を代表する驚異的な一本であった。

上映の前後には映画評論家の町山智浩氏が登壇し、本作の解説を行なった。そこで彼が言ったように、本作は多くを知らずに観るほうがいい作品である。しかしながら、観終わると必ず多くを語りたくなるのだが、それをうまく言葉にすることが難しいほど、掴みどころのない作品でもある。本稿では、町山氏のトークショーを踏まえながら、極力作品の根幹に触れないようにレビューすることを心がけようと思う。

娘をレイプされ殺された一人の女性・ミルドレッドが、町外れの大きな3枚のビルボード(ロードサイドに立てられている大きな看板のことである)に、まったく捜査を進展させない警察へ宛てたメッセージ広告を掲載するところから物語が始まる。小さな町エビングの人々は、その看板で標的に挙げられている警察署長・ウィロビーに厚い信頼を置いていて、看板の存在がミルドレッドをはじめ町全体を揺るがし始めるのだ。

本作で、実に興味深く思えたのが登場人物たちの設定の構造である。小さな町を舞台にしているとはいえ、登場人物は決して多くない。それでも、そのほとんどにしっかりとしたドラマが与えられる。そして、主人公ミルドレッドには息子がいて、ウィロビーには年の離れた若い妻、サム・ロックウェル演じる荒っぽい刑事ディクソンには貫禄溢れる母、看板屋の青年には同僚の女性、主人公の元夫には19歳の恋人と、ほとんどが男女のペアを成立させている。

また、ウィロビーの妻・アンがミルドレッドを訪ねてくる場面で、あるきっかけで感情を抑えるアンの発言に、ミルドレッドは上の空で窓の外に停められた車に乗った、ウィロビー家の幼い姉妹を眺める。おそらくほとんどの映画で、このようなシチュエーションに陥った主人公は自分の感情であったり、思想を相手に諭したりすることだろう。例えば「あなたの娘が同じ目に遭ったら?」というように。しかし、この映画は決してそのようなダイアローグを選ばない。

この2点が、本作をテンプレート的で凡庸な作品から遠ざけ、えも言われぬ冷静さを与え、確固たるスタイルを築き上げている。ここで、町山氏の上映前の解説をひとつ付け加えよう。舞台となるエビングは架空の町ではあるが、その町があるミズーリ州は、アメリカのほぼ中央に位置している州である。南北戦争時には、州内で南北に分断された、哀しい歴史を持った州なのである。

登場人物たちの組み合わせは、性別的・年齢的にも対照的でありながら、同じ方向を向くときは向き、ときにはぶつかり合い、助け合い、従い、あらゆる感情を分かち合う。そして、自己と他者を完全に独立したものだと、自然と認識し合っている。利己的で、感情的なドラマでありながらも、自然と登場人物たちは、自己を理解してもらうために他者を受け入れていく。

もっと大きな視点で言うならば、娘を殺された主人公は被害者であり、捜査怠慢で差別的思考を持った警察という組織が加害者という構図が、序盤にこそありながら、たった2時間も無い物語の中で、その垣根が平等化されていく。誰ひとりとして正義ではなく、そして悪でもない。ただひたすらに、感情で突き動かされる、人間くささを見せつづけるだけなのである。

劇中には、映画フリークとして知られるマクドナー監督らしい、様々な映画のオマージュが捧げられる。下手なことを言えば、勘のいい人は気が付いてしまうだろうが、上映後のトークで町山氏が言及したようにオリヴァー・ストーン監督の『プラトーン』(86)が、非常に面白いオマージュの捧げられ方をしていたり、テレビの中に音だけで登場するニコラス・ローグ監督の『赤い影』(73)も密かに作品の効果を高める。

また、劇中に台詞として登場する数々のエピソードは、実際にアメリカ社会を揺るがした事件を示しており、それをイギリス人監督が手がけたというのも、本作への関心を高めるひとつの要因になっているのだと、町山氏は分析した。たしかに、トランプ政権の誕生により、アメリカ社会に差別意識が高まり、社会全体が分断されることがたびたび危惧されている昨今。そこにきて、映画界ではかの大物プロデューサーに端を発する性差別・性犯罪の問題が頻出。

あらゆる差別意識を否定し、リベラルな姿勢を貫き、そして性犯罪へ真っ向から立ち向かっていく主人公の姿。この『スリー・ビルボード』は、2017年だけでなく、この時代を象徴する一種のスタンダードとして語り継がれていく作品になるかもしれない。本作は、来年2月1日(木)より全国公開となる。【取材・文/久保田和馬】

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