『スパイの妻』黒沢清監督・濱口竜介・野原位の師弟座談会が実現「こういう恩返しがあるのか、と思いました」 |最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
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インタビュー 2020/10/17 13:35

『スパイの妻』黒沢清監督・濱口竜介・野原位の師弟座談会が実現「こういう恩返しがあるのか、と思いました」

『スパイの妻 劇場版』は10月16日より公開中
『スパイの妻 劇場版』は10月16日より公開中[c]2020 NHK, NEP, Incline, C&I

第77回ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)を受賞した『スパイの妻 劇場版』(公開中)で、改めて“世界のクロサワ”として称賛を浴びた黒沢清監督。監督の卓越した演出力や、蒼井優、高橋一生の熱演もさることながら、歴史の闇に斬り込んだ本作が、監督とその教え子である濱口竜介、野原位とのオリジナル脚本だったことも、特筆すべき点である。そこで黒沢監督と濱口、野原の3人を直撃。本作の製作秘話をお聞きすると、名匠、黒沢監督から受け継がれている“黒沢イズム”の豊かさを実感できた。

5時間17分という長尺の監督作『ハッピーアワー』(15)や、商業映画の監督デビュー作『寝ても覚めても』(18)が高い評価を受けた濱口と、『ハッピーアワー』に製作、共同脚本という形で参加し、濱口の助監督も務めてきた野原。2人は、東京藝術大学で教鞭をとる黒沢監督から映画作りを学んだ愛弟子である。

【写真を見る】黒沢監督と愛弟子の濱口竜介、野原位がクロストーク
【写真を見る】黒沢監督と愛弟子の濱口竜介、野原位がクロストーク[c]2020 NHK, NEP, Incline, C&I

『スパイの妻』はもともとNHKの8Kのドラマとして撮影され、それを1本の映画として編集したものだ。時代は1940年、神戸で貿易会社を営む福原優作(高橋一生)は、妻の聡子(蒼井優)と、神戸の洋館で穏やかな生活を送っていた。ところが、優作と優作の甥・竹下文雄(坂東龍汰)が、仕事で訪れた満州から帰国して以降、聡子の知らぬところで、優作が別の顔を持ち始める。

「こういう恩返しがあるのか、と思いました」(黒沢)

――ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞おめでとうございます。教え子と共に、受賞されてのご感想を聞かせてください。

黒沢清監督(以下、黒沢)「ありがとうございます。こういう恩返しがあるのかなと思いました。卒業生に、僕のほうから脚本を依頼したり、助監督に声をかけたりすることは何度かあったのですが、逆に、監督のオファーをもらったのは、今回が初めての経験でした」

野原位(以下、野原)「ダメもとで言ってみるものですね(笑)。何回か3人で打ち合わせをさせてもらいましたが、黒沢さんは、『これ、本当に実現するのかな?』と思われていたんじゃないかなと」

黒沢「実は、経験上、ほぼダメだろうなと思っていました(笑)。いくらおもしろくても、予算がかかりすぎる映画だったので。この手の日本映画の場合、有名な原作ありきで進むケースがほとんどですが、今回はオリジナル脚本だし、実在の人物が主人公でもないし、実現するのはかなり難しいだろう、というのが本音でした」

メガホンをとった黒沢清監督
メガホンをとった黒沢清監督撮影/山崎伸子

「まずは、おもしろいものを!ということで、大風呂敷を広げてしまいました」(野原)

――最初に、黒沢監督と濱口さんに企画を持ち込まれたのは、野原さんだったそうですね。

野原「もともとInclineのプロデューサー陣とともに、NHKさんと神戸を舞台に8Kでなにか映像作品が作れないかということで、兵庫県にゆかりのある作品を考えていました。それで、ダメもとで神戸出身の黒沢さんにお声掛けをしてみたんです。また、濱口さんとは学生時代からの長いつきあいだったので、脚本でご一緒できないかと打診したら『黒沢さんの作品であれば、ぜひ』とのことでした」

濱口竜介(以下、濱口)「でも、黒沢さんが監督されるのなら、黒沢さんご自身がおもしろいと思う脚本を書かなければいけないと、その時はかなり意気込みました。それで、時代ものと現代劇を2本分のプロットとして用意したんです」

――『スパイの妻』とは別に、現代劇も提案されたそうですね。黒沢監督は2本のプロットを読んでみていかがでしたか?

黒沢「現代劇のほうも、企画としてよくできていたのですが、『スパイの妻』は、それ以上におもしろかったんです。ただ、いまの神戸には、1940年代前半の風情が残っているところなんてほとんどないと思っていたので、予算的な面も含め、撮影は相当な困難だなとは思いました」

野原「濱口さんは『ハッピーアワー』を撮ってるころから神戸に長く住んでいたし、僕もその撮影中は神戸にいましたので、土地勘があるから大丈夫かなと。もちろん、黒沢さんは地元ですし」

黒沢「いやいや、いまの神戸はまったくわからないです。でも、逆に土地勘があって、よくあの脚本を書けたなあと(苦笑)」

濱口、野原「すいません!」

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