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インタビュー 2020/10/29 17:00

公開中『星の子』でますます冴えわたる大森立嗣の演出術。その“捉えにくさ”を捉える【宇野維正の「映画のことは監督に訊け」】

宇野維正の「映画のことは監督に訊け」第3回は、大森立嗣監督が登場
宇野維正の「映画のことは監督に訊け」第3回は、大森立嗣監督が登場撮影/河内 彩

具体的な監督名を何人か思い浮かべてみてもわかるように、予算的にも環境的にも作品の撮影に数週間から長くても2、3か月程度しかかけることができない現在の日本映画界において、監督の創作ペースは「その監督が周囲からどれだけ求められているか」、あるいは「監督自身の創作意欲がどれだけ高まっているか」を示す大きな指標となります。2018年の『日日是好日』の大ヒットに続いて、2019年は2本の新作が公開、コロナ禍の2020年も7月公開の『MOTHER マザー』に続いて矢継ぎ早に『星の子』が現在公開中。監督としてのデビューから15年を経て、まずはその創作ペースだけとってみても、現在の大森立嗣監督は一つのピーク期にあると言ってもいいでしょう。

『星の子』主演の芦田愛菜、撮影当時、演じたちひろと同じ中学3年生だった
『星の子』主演の芦田愛菜、撮影当時、演じたちひろと同じ中学3年生だった[c]2020「星の子」製作委員会

でも、大森監督はそんな前のめりなこちらの姿勢をスルリとかわしてみせます。作品がヒットしても別に新しいオファーはこないし、2020年は最初から休むつもりだったし、別にここ数年もこれまでとは変わらない、と。そんな「つれなさ」は、あるいはその作風にも通じていると言ってもいいかもしれません。『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』(10)の松田翔太や高良健吾や安藤サクラ、「まほろ駅前」シリーズの瑛太や松田龍平、『さよなら渓谷』(13)の真木よう子、『セトウツミ』(16)の池松壮亮や菅田将暉、『日日是好日』(18)の樹木希林や黒木華や多部未華子、『MOTHER マザー』の長澤まさみ、そして『星の子』の芦田愛菜。大森作品は常にそんな役者たちの忘れがたい「新境地」や「別の顔」を引き出しながらも、そこで監督の作家性を指摘しようとすると足元を掬われるような天邪鬼なところがありました。

【写真を見る】松田龍平と瑛太がゆる~いコンビネーションを発揮した『まほろ駅前多田便利軒』
【写真を見る】松田龍平と瑛太がゆる~いコンビネーションを発揮した『まほろ駅前多田便利軒』[c]2011「まほろ駅前多田便利軒」製作委員会

今回のロングインタビューは、そんな大森監督のこれまでつかみどころのなかった作家性を、なんとか浮き彫りにしようという試みです。そこでのそのひとまずの結論は、まさかの“いいかげんさ”となりましたが、実は現在の日本で映画を撮り続ける上でその“いいかげんさ”は、とても重要な美徳なのかもしれません。

『MOTHER マザー』に続き、今年2本目の監督作『星の子』が公開中の大森立嗣監督
『MOTHER マザー』に続き、今年2本目の監督作『星の子』が公開中の大森立嗣監督撮影/河内 彩

宇野維正(以下、宇野)「最新作『星の子』がとてもすばらしくて、その話も追ってさせていただきたいんですけれど、まずは大森監督の過去作について振り返っていきたいと思っています。最新のトピックとしては、『日日是好日』が新型コロナウイルスによるロックダウン期間を経て営業再開したばかりのフランスやベルギーの映画館でヒットしているというニュースが届いてます」
大森立嗣監督(以下、大森)「わりとお客さんが入っているみたいですね。その前に、韓国でも結構入ったんですよ。あとは、台湾や香港でも公開されたのかな」
宇野「日本でも『日日是好日』は興収13億円という、これまでの大森監督の作品の中でも最大のヒットになったわけですけども。日本の興行は樹木(希林)さんが亡くなられたばかりのタイミングだったということもあったわけですが、海外での好リアクションはあの作品の本来の力を証明したと言ってもいいですよね」

樹木希林の遺作となった『日日是好日』
樹木希林の遺作となった『日日是好日』[c]2018「日日是好日」製作委員会

大森「うーん。どうなのかな。うれしいっちゃうれしいですけども、自分でなにかを大きく変えて作った作品というわけではないので、あんまりそういう実感はないかもしれないですね」
宇野「でも、やっぱりこうして作品が当たると、いろんな話が来るとか、そういうこともあるんじゃないですか?」
大森「いや、話は来ないですよ。『日日是好日』をやってからは、なにも来てない(苦笑)。どっちにしろ、2020年は丸1年休むつもりだったし」
宇野「そうだったんですか(笑)。でも、ここにきて2年で4本と作品のペースも上がってきてますよね。今年も『MOTHER マザー』の後すぐに『星の子』が公開されて。作品的にも、毎回ちゃんと商業的なフックというか、ある種のキャッチーさがあるというか。監督としてデビューされて今年で15年目なわけですけど、ここにきてキャリア的には一つのピークにきている印象があるんですけど」
大森「『さよなら渓谷』と『ぼっちゃん』も同じ年(2013年)に2本撮って、そういう実感はあの時の方があったかな。特に『ぼっちゃん』はほぼ完全にインディペンデントなかたちでやれたので、あの映画と『さよなら渓谷』のような商業性もある作品を、同じ年に撮れたという手応えは大きかった。いまは、たまたま2年連続で2本ずつ撮って公開されているわけですけど、少しは映画作りというものに慣れてきたから、あまり心を乱さずにできているし、経験が増えた分だけやりやすくなっているところはありますけど。自分の中ではあまり大きく変わった気もしていないんですよね。それに、ほら、同年代にも白石(和彌)くんみたいに、ずっと年に3本撮ってたりする監督もいるわけだし」

宇野「あと、今泉(力哉)監督とかも」
大森「まあ、今泉くんは後輩だから、あんまりわかんないんだけど(笑)。でも、彼もすごいですよね。完全にインディペンデントなところからきてますからね。そういう意味では心強い。白石くんは年も近くて、若松組から出てきたという点でも、ちょっと自分と近い匂いがするなと思っていたんだけど。ただ、白石くんと一回対談したことがあるんですが、彼はプロ意識がすごく強くて、俺とはまたはちょっと違うなと」
宇野「娯楽映画志向も強いですしね」
大森「はい、そこも違うし。宇野さんは“キャッチー”という言葉を使ってくれましたけど、俺の作品は『キャッチーなのかな?』って(笑)」


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