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50歳で監督デビュー。異色作『人数の町』を世に問う荒木伸二、最も“近い”批評家との対話【宇野維正の「映画のことは監督に訊け」】

2020年9月10日 13:00

宇野維正の「映画のことは監督に訊け」、第2回は『人数の町』荒木伸二監督
宇野維正の「映画のことは監督に訊け」、第2回は『人数の町』荒木伸二監督撮影/河内 彩

海外の映画大国と比べると決して恵まれているとは言えない現在の日本映画の現場から、それでも目の覚めるような新作を届けてくれた映画監督に、いまなにを考えながら映画を撮っているのかをじっくりと訊いていく新連載「映画のことは監督に訊け」。今回は連載2回目にして、初回とも、そして第3回目以降とも、トーン&マナーがかなり異なるイレギュラーな回をお送りすることになります。というのも、今回のインタビュイーである荒木伸二監督は、自分にとって中学生の頃からの大親友。普通、真顔で“大親友”とかキーボードを打つのは小っ恥ずかしいものですが、そんな小っ恥ずかしさも吹っ飛んでしまうほど近しい存在だからです。

もちろん、荒木伸二監督を取り上げる理由は、大前提として彼の監督デビュー作である『人数の町』(公開中)が、現代の日本を舞台にしたディストピア映画としても、中村倫也&石橋静河というこれからの日本映画を担っていくだろう役者たちの出演作としても、極めて重要な作品だからです。また、「50歳で初監督作」という異例の遅いデビューにいたった彼のこれまでの道筋には、読者の関心を引くものがあるかもしれません。広告クリエイターが仕事で育んだコネクションから映画を監督するという例は過去にも多くありましたが、彼の場合は40代になってから脚本スクールに通い、脚本のコンクールに応募をし続けるという愚直にも思えるような方法で、初監督作品を撮るチャンスを手にしました。

【写真を見る】中村倫也と石橋静河の共演も大きな話題になった『人数の町』監督に、1万字超えのインタビュー
【写真を見る】中村倫也と石橋静河の共演も大きな話題になった『人数の町』監督に、1万字超えのインタビュー[c]2020「人数の町」製作委員会

映画監督になるのに、決まったレールがなくなって久しい現在の日本映画界。作品のディベロップの仕方、制作プロダクションとの関係、製作費やクランクイン前の心得の話など、通常の監督インタビューでは訊けないようなことも突っ込んで訊いてます。「別に映画監督になりたかったわけじゃない。映画を撮りたかっただけ」という彼の言葉には、気づかされるものがあるのではないでしょうか。

にこやかに自作について語ってくれた、荒木伸二監督
にこやかに自作について語ってくれた、荒木伸二監督撮影/河内 彩

宇野維正(以下、宇野)「連載第1回の三木孝浩監督のインタビューは好評で、ちょうど新作を観て是非インタビューしたいと思っていた監督から逆オファーをいただいたりもして。『映画監督の1万字超えのロングインタビューって、読み手にとっても取材を受ける側にとっても、ちゃんとニーズがあるんだな』って思ってたところなんだけど」
荒木伸二監督(以下、荒木)「三木監督がどうしてああいう作品を撮り続けてきたのか、すごくよくわかった。『ヒッチコック/トリュフォー』じゃないけど、やっぱりインタビューは取材の基本だし、映画監督のインタビューって改めておもしろいなって」
宇野「『ヒッチコック/トリュフォー』は畏れ多すぎるけど、フランソワ・トリュフォーの仕事でいうなら初期に彼が『カイエ・デュ・シネマ』に寄稿した『フランス映画のある種の傾向』がひとまずの高い目標だよね。まずは、同時代の『日本映画のある種の傾向』を共通認識として作り手と確認していくところから始めないと、批評家としてその先にいけないと思ってこの連載を始めたわけなんだけど、いきなり第2回の取材相手が12歳の頃からの友人という」
荒木「すみませんね」

名著「映画術 ヒッチコック/トリュフォー」を題材に、ドキュメンタリー映画も作られた
名著「映画術 ヒッチコック/トリュフォー」を題材に、ドキュメンタリー映画も作られた[c]COHEN MEDIA GROUP/ARTLINE FILMS/ARTE FRANCE 2015 ALL RIGHTS RESERVED. PHOTOS BY PHILIPPE HALSMAN/MAGNUM PHOTOS

宇野「まさか、50歳になって君がこんな大々的に映画監督デビューするとは想像してなかったからさ。モスクワ国際映画祭やバンクーバー国際映画祭にも正式招待作品として選出されるという。それ、裏で誰かが手を回してるとか、お金が動いてるとかじゃないよね?」
荒木「全部ちゃんと、審査を受けてます(笑)」
宇野「学生の頃から撮影を手伝ったりしていて、この『人数の町』の脚本も応募後に読ませてもらっていたわけだけど。出来上がった作品を最初に観た時は、とにかく映画ジャーナリストとして客観的にならなきゃってことばかり考えてた。えっと、その時に俺なんて言ったっけ?」
荒木「『多分、年末に振り返って2020年に観た日本映画では5本の指に入るだろう』ってことと、『きっと次も撮れるね』ってこと」
宇野「もう、それが客観的になっての精一杯の感想でした。作品がよくできていて、しかも、ちゃんとおもしろくて、とにかくホッとしたっていう。ダメだったらダメだったって言わなきゃと思ってたから。なので、今日はこの特殊な関係性だから訊けることだけをズケズケと訊いていきます」
荒木「はい。真面目に話します」
宇野「中学生の頃から映画を撮りたいと言ってて、高校生の時に撮り初めて、大学を休学して、La Fémis(フランス国立映像音響芸術学院)の入試準備のために試験の1年前からパリに留学して、エリック・ロメールの授業とかに潜り込んでて、いつの間にかフランス語はペラペラになってたけど試験には落ちて、日本に戻ってまた映画を作って、卒論をジャック・リヴェットで書いて卒業して、就職して。で、そこから今日までも年中会ってきたわけだけど、40代になってから脚本の勉強をしてたよね?本業でしっかり食えてるのに、いまさらなにやってるんだろうとその時は思ったんだけど、あれはどうしてだったの?」
荒木「もともと(即興演出で知られる)リヴェットで卒論を書くくらいだから、若い頃は映画において脚本ってものにあまり重きを置いてなかったわけ。でも、コマーシャルを作ってると、尺が短いから当然なんだけど、構成力っていうものが全然身につかないのね」
宇野「構成力っていうと?」
荒木「1時間半なり2時間なり、長い時間の映像作品をどう構成していくのかっていうこと。それを学んでみたくなって、ブレイク・スナイダーの『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』っていうよく知られた脚本のハウツー本があるんだけど、その本を読み込んで試しに自分でも書いていくうちに、『物語の構成を考えるのってかなりおもしろいな』って思うようになって。それで、仕事の後に表参道にあるシナリオセンターに通うようになったの」
宇野「脚本スクール、東京にいくつかあるよね」
荒木「赤坂にもシナリオ講座ってスクールがあって、俗に“赤坂”と“表参道”って言われてるんだけど、僕が通ったのは“表参道”のほう」

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