• TOP
  • 映画ニュース
  • LETO -レト-
  • ロシアの伝説的ミュージシャン、ヴィクトル・ツォイを知っているか?『LETO -レト-』が描く刹那的な輝き
  • COLUMN

ロシアの伝説的ミュージシャン、ヴィクトル・ツォイを知っているか?『LETO -レト-』が描く刹那的な輝き

2020年8月10日 21:30

1980年代前半のソ連、レニングラードを舞台にロックスターを夢見る若者たちの希望や葛藤を描く『LETO -レト-』(上映中)。レッド・ツェッペリンやT・レックス、デヴィッド・ボウイなど70~80年代を象徴するロック・ミュージックが全編を彩る本作は、ロシアの伝説的バンド「キノ」のヴォーカリスト、ヴィクトル・ツォイが“自由”と“音楽”を追い求める物語でもある。

ヴィクトルとマイクはともに音楽活動をおこなっていく
ヴィクトルとマイクはともに音楽活動をおこなっていく[c]HYPE FILM, 2018

西欧文化禁止のソ連でロックを追い求める若者たち

西側諸国(資本主義諸国)の文化が禁忌とされていたソ連。しかし、完全に禁止されていたわけではなく、ビートルズのレコードが国営レーベルから販売され、国内からも次々とロックバンドが誕生。共産党青年部の監視のもと、レニングラードのロック・クラブではコンサートも開催され、観客は静かに座って鑑賞することを求められていた。一方で、アンダーグラウンドな場でもライブはおこなわれ、大勢の若者が演奏に熱狂。貴重なレコードの代わりに、使用済みのレントゲン写真を丸く切って、禁止された海外のロックやジャズを録音した“ボーン・レコード”なるものが発明され、自分で歌詞を書き起こし、ジャケットの画を模写するといった独自の文化も発達していた。

西欧文化が禁忌とされていた時代に、ロックに魅了された若者たちを描く
西欧文化が禁忌とされていた時代に、ロックに魅了された若者たちを描く[c]HYPE FILM, 2018

若者の心をつかんだ伝説的バンド「キノ」とヴィクトル・ツォイ

そんなソ連時代のロックシーンを駆け抜け、英雄として語り継がれるバンドとなったのが、本作に登場する「キノ」だ。キノは朝鮮人の父とロシア人の母を持つヴィクトル・ツォイによって1982年に創設された。思春期から曲を書き始めた彼は、そのキャリアを通して10枚のアルバムを制作。俳優としても活動し、日本でも公開された主演作『僕の無事を祈ってくれ』(88)などでその活躍を確認することができる。
ソ連においてロックは優れた芸術であるべきという考えがあり、当局によってミュージシャンの歌詞もチェックされていた。ヴィクトルの歌詞は労働者を歌ったもので批判の対象となるが、若者を中心に共感を呼び、上記の映画出演もあり“キノマニア”と呼ばれるムーブメントも巻き起こった。ソ連唯一のレコード会社「メロディヤ」との契約がなかったため非公式の活動だったが、リリースする作品は軒並み大ヒット。デンマークなど海外の慈善ライブにも招待されるほどの人気を誇った。

「キノ」を結成し、ライブに臨むヴィクトル
「キノ」を結成し、ライブに臨むヴィクトル[c]HYPE FILM, 2018

ヴィクトルを語るうえで欠かせないのが、彼がミュージシャンを夢見ていた時に、すでに一線で活躍していた人気バンド「ザ・ズーパーク」の中心メンバーであるマイク・ナウメンコ。ボブ・ディランなど英米のミュージシャンに多くのインスピレーションを受けたマイクは、ロシアロック界における最もすばらしいアーティストの一人として見なされている。

本作の物語は、ヴィクトル(ユ・テオ)とマイク(ローマン・ビールィク)、そしてマイクの妻であるナターシャ(イリーナ・ストラシェンバウム)の3人を中心に展開される。自作の曲を携えて、マイクのもとを訪れたヴィクトル。その才能を認められた彼は、マイクの家に招かれアドバイスを受けながら音楽活動をおこない、彼の妻ナターシャらとも交流を深める。一方で、ヴィクトルとナターシャはともに惹かれ合い、淡い恋心が芽生えていく。

ヴィクトルは先輩ミュージシャンのマイク・ナウメンコに才能を認められる
ヴィクトルは先輩ミュージシャンのマイク・ナウメンコに才能を認められる[c]HYPE FILM, 2018

トーキング・ヘッズやイギー・ポップのヒット曲をバックにミュージカル!

全編にわたりモノクロ映像が映しだされるなど、映像表現もかなりユニーク。歌唱シーンではカラー映像が差し込まれ、落書きのようなアニメーションや“これはフィクション”というメタ的なテロップも登場する。さらに、トーキング・ヘッズの「Psycho Killer」、イギー・ポップの「The Passenger」、ルー・リードの「Perfect Day」といった楽曲をバックにミュージカルが展開され、主要な登場人物以外にも、電車やバスの乗客、通行人が歌いだし、風刺的な表現も絡むなど、閉鎖的な社会に生きる人々の鬱屈した感情が伝わってくる。

ソ連ではイスに座ったままロックを静聴していた
ソ連ではイスに座ったままロックを静聴していた[c]HYPE FILM, 2018

人気絶頂で命を落としたヴィクトル・ツォイの衝撃…

劇中では直接描かれないが、ヴィクトルは1990年に、アルバム制作で訪れたラトビアで交通事故に遭い、28歳で命を落とす。さらに翌年、マイクも脳出血のため36歳で死去してしまう。人気絶頂のなかで亡くなったヴィクトルの死は、大勢のファンにショックを与え、後追い自殺者が出るほどの衝撃となった。

ソ連時代のロックシーンを駆け抜けたヴィクトル・ツォイとは?
ソ連時代のロックシーンを駆け抜けたヴィクトル・ツォイとは?[c]HYPE FILM, 2018

ヴィクトルの死から今年で30年。その意思は現在まで伝わり、ロシアの街には彼を追悼する銅像が建てられ、「ツォイ・ウォール」と呼ばれるヴィクトルを称える落書きで埋め尽くされた壁も現存し、いまでも献花に人々が訪れるという。ひと夏(=LETO)の輝きのように、音楽の道を突き進んだ彼らの生き様をその目に焼きつけてほしい。

文/平尾嘉浩(トライワークス)

関連映画

関連映画ニュース