宇宙にまで行った3代目、ロジャー・ムーアが演じた楽天的なジェームズ・ボンド |最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
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コラム 2020/7/29 22:50

宇宙にまで行った3代目、ロジャー・ムーアが演じた楽天的なジェームズ・ボンド

2代目ボンド俳優のジョージ・レーゼンビーが『女王陛下の007』(69)のみで降板。続く『007/ダイヤモンドは永遠に』(71)では初代のショーン・コネリーが呼び戻されたが、これは一作限定の急場しのぎ。そんな迷走気味の「007」シリーズに新たな活気と安定感をもたらしたのが、3代目ボンドのロジャー・ムーアだった。1960年代のテレビシリーズ「セイント 天国野郎」で人気を博したこのロンドン生まれの二枚目スターは、ショーン・コネリーより3つ年上の1927年生まれだが、初登場作の『007/死ぬのは奴らだ』(73)から『007/美しき獲物たち』(85)まで12年間で全7作品に出演した。

歴代ボンドの最多となるシリーズ7作に出演
歴代ボンドの最多となるシリーズ7作に出演写真:SPLASH/アフロ

コネリーが打ち立てた鮮烈なボンド像は、当時のファンの脳裏に絶対的なイメージとして焼きついていたが、ムーアはワイルド&セクシーな初代とはまったく異なる個性を放った。エレガントな容姿とソフトな物腰、ジョーク好きで女好きのキャラクター、そしていかなる危機もひょいひょいと切り抜けてしまう軽やかな身のこなし。こうしたムーアの楽天的な魅力は、派手な娯楽路線に振りきった70~80年代半ばにおけるシリーズのテイストを決定づけた。現役ボンドであるダニエル・クレイグの「007」をシリアスな劇画調だとすれば、まさしくムーア時代のそれは荒唐無稽で痛快なマンガのようだった。

【写真を見る】この困り顔!ユーモラスなボンド像として親しまれたロジャー・ムーア
【写真を見る】この困り顔!ユーモラスなボンド像として親しまれたロジャー・ムーア写真:SPLASH/アフロ

シリーズ第10作『007/私を愛したスパイ』(77)は、ムーアがオリジナルのボンド像を完全に確立した超大作だ。東西冷戦下でにらみ合うイギリスとソ連の原子力潜水艦が、共に消息不明になる大事件が発生。MI6から真相究明を命じられたボンドが、邪悪な大富豪ストロンバーグの世界滅亡計画に立ち向かうというストーリーである。

『007/私を愛したスパイ』のボンド・カー、ロータス・エスプリと
『007/私を愛したスパイ』のボンド・カー、ロータス・エスプリと写真:SPLASH/アフロ

巨額の製作費を投じ、巨大タンカーや複数の原潜、ストロンバーグの秘密基地である海洋研究所のセットを建造した本作は、全編に豪快な見せ場が満載されている。プレタイトルのスキー・アクションではボンドがユニオンジャックのパラシュートで宙を舞い、秘密兵器をフル装備したボンドカーのロータス・エスプリは魚雷搭載の潜水艇に変貌し、海中でも大活躍!

おまけに、鋼鉄の歯を持つ悪役としてファンに大ウケした巨漢の怪人ジョーズ(リチャード・キール)が、ストーカーのごとくボンドの行く手に立ちはだかる。KGBの美人スパイ、アニヤ(バーバラ・バック)と共闘するボンドは、当然のように親密な関係になっていくのだが、彼女の勝ち気な振る舞いにユーモアで応じるムーアの軽妙な演技にいちいちニヤリとせずにいられない。

自伝『My Word Is My Bond』など著作も多い
自伝『My Word Is My Bond』など著作も多い写真:SPLASH/アフロ

リアリティなどには目もくれず世界中を華麗に駆けめぐったムーア時代のボンドは、本作に続く『007/ムーンレイカー』(79)では当時のSFブームに乗じて地球を飛び出し、宇宙空間でのミッションにも挑んだ。誰からも愛され、シリーズに計り知れない功績を残したムーアは、コネリーに続いてイギリス王室から“サー”の称号を授与され、名実共に“永遠のボンド俳優”になったのだ。

文/高橋諭治