ユン・ゲサン
リュ・ジョンファン
「タクシー運転手 約束は海を越えて」の脚本家オム・ユナによる初監督作。民族の言葉が消えゆく1940年代の京城。窃盗などで生計をたてていたお調子者のパンスは、盗んだバッグを巡って朝鮮語学会代表ジョンファンと出会い、彼のもとで雑用係として働き始める。出演は「犯罪都市」のユン・ゲサン、「1987、ある闘いの真実」のユ・へジン。
※結末の記載を含むものもあります。
1940年代・京城(日本統治時代のソウル)。名門中学校に通うドクジンと幼いスンヒを育てる男やもめのパンス(ユ・へジン)。ある日、勤め先の劇場をクビになった彼は、息子の学費を工面しようと朝鮮語学会代表ジョンファン(ユン・ゲサン)のバッグを盗むが失敗に終わる……。一方、裕福な家庭の息子・ジョンファンは、失われていく朝鮮語(韓国語)を守るために朝鮮語の辞書を作ろうと各地の方言などあらゆる“ことば”を集めていた。民族の精神である言葉を守ることが国を守る道であると信じる彼は、親日派である父の言動を恥じていた。そんな折、パンスは刑務所で同房だった朝鮮語学会のチョ先生の紹介で、プライドを捨てて朝鮮語学会で雑用係として働くことになる。彼は学校に通ったことがなく、母国語である朝鮮語の読み方や書き方すら知らなかった。しかし、40を過ぎて初めて文字を学び、ジョンファンの辞書作りを通して、母国の言葉の大切さを理解していく……。
リュ・ジョンファン
キム・パンス
Gap-yoon Jo
Dong-ik Im
Hoon Park
Ja-yeong Goo
Woo-cheo Min
監督、脚本
製作
撮影、撮影
編集
製作総指揮
照明
美術
衣装
音楽
[c]2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved. [c]キネマ旬報社
前半のコメディタッチから、後半の涙の物語に変わる構成が実に上手い。
その中軸をなす、キャラクター設定がいい。
主人公が、スリのおっさん。
その日暮らしで教養がなく読み書きできない中年男が、人との出会いから文字を次第に覚えていき、親として子どもたちに自国の誇りと未来を遺したいって思うように変わっていくのが実に良かったです。
『タクシー運転手 約束は海を越えて』の脚本家による、初監督作品。
朝鮮語学会の会員を検挙投獄した「朝鮮語学会事件」と、朝鮮語の辞書を作るために奮闘した人々の、実話をベースにした作品。
話は多少盛って演出するものの、『タクシー~』同様に芯は買えない姿勢は本作でも同じ。
言葉というものが、いかにその国の文化・歴史・思想・倫理観そのものなのかという、あたり前のことをしっかり描いていました。
少々日本人の表現が怪しい部分がある(特に日本語のイントネーション等)のが、少々残念。
日本人が高圧的かつ暴力的過ぎな表現ではあるのですが、これまでの中国や韓国の「抗日もの」ドラマと比べてみればおとなしく、このくらいはあったかもしれないと納得するレベル(日本国内でも、日本人の戦争反対派を投獄し、死刑にしたり獄中で拷問死させたりした例は多数あったわけで)。
それに、日本が朝鮮を植民地化し、日本の一部として併合しようとした際、現地の言葉を弾圧し、次々に学校で朝鮮語教育を禁止し朝鮮人に日本語を覚えさせ、日本名へ改名させようとしたのは事実なので、それだけで十分にひどいこと。
実際、ソウルオリンピックのころ観光旅行で韓国の飲食店に行くと、高齢者の店主はだいたい日本語を喋れて、日本人の私は旅で不自由しなかった経験があります。
当時は「助かるな、楽ちん」としか思いませんでしたが、本作を見ながらその歴史的背景に今さら思い至り、冷や汗をかくのでありました。