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投稿レビュー(1件)蟲師 特別編「鈴の雫」は星4つ

小さな生命の大きなうねり (投稿日:2015年6月8日)

事実上の2本立て作品。前半はかつて観たことのある話(前・後編をまとめたもの)でした。
これは後半の描き下ろしに繋がる話ではありません。人気の高い話を選んだのかもしれませんが、映画で初めて蟲師を観賞する人に分かりやすく蟲や蟲師の設定を提示する意味合いも含めた選択かと思われます。

描き下ろし後半ですが、特に映画と言うことで気張るようなこともなく、映像も物語も淡々と進みます。そこにあるメッセージもこれまで同様で、季節が移ろうように自然の為すがままにただ繰り返される命の循環が描かれています。

本シリーズは原作に準拠した素朴な自然風景やそこに息づく蟲の佇まいを精密に再現し、そのビジュアルがそのまま作品世界の精神性にも繋がっているところが特徴的です。
深みのある緑で描かれる野性味を帯びた木々の逞しさは山そのものに気高き命を与え、山の主(神)という日本人特有の概念を体感させることに一役買っています。
これは観光地のような見てくれのよい自然だけを青々と描き、闇雲に自然賛歌を謳いあげる昨今の傾向とは決定的に違う点です。
自然はただそこにあって時に人を拒み、時に人を包み込み、人が介入しようとしても大きな流れの中でやがて元に戻ってしまう。そうした巨大なエネルギーの循環を蟲という幻想生命を通してきちんと描いていることは、他の作品のどれよりもリアリティーを持って観る者に訴えかけてきます。
そして、この自然を正しく描きだす世界観があるからこそ、まるでドキュメンタリーのようにそこに暮らす人々が生々しく描き出され、架空の存在である蟲たちが身近で現実味を帯びてくるのだと感じます。

口数少ないギンコはフラットであり続け、少しだけ自然に対して口を挟みます。変えられないと分かっていても人間らしくありたいがための心情が彼を動かします。しかし、この作品には偶然はあれど奇跡は皆無で、やはり大いなる自然の流れには逆らえないのです。このファンタジーの中に打ち込まれた現実主義の楔こそが、魅力的なエピソードを生み出すを源なのではないでしょうか。
そして一貫してこのスタイルを貫いたからこそ、歪んだ自然崇拝論とでも言うべきトレンドに陥ることなく続けてこられたのでしょうね。

静寂のような小さな生命の佇まいの中に強大なエネルギーのうねりを描き出すことに成功した希有な作品です。 »ガイドライン違反報告

投稿:k-movie

評価:4
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