美しき運命の傷痕|MOVIE WALKER PRESS
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美しき運命の傷痕

2006年4月8日公開,102分
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ポーランドの巨匠、故クシシュトフ・キェシロフスキの遺稿をエマニュエル・ベアールら人気女優の共演で映画化。心に傷を負った3人姉妹の悲哀と再生への道のりを力強く描く。

ストーリー

※結末の記載を含むものもあります。

幼いころに父親を失った過去を引きずる3人姉妹。長女ソフィは夫の浮気、三女アンヌは大学教授との不倫、そして次女セリーヌは孤独に悩んでいた。人生に行きづまった3人は久々に集まり、母親の元へ向かう。

作品データ

原題
L' Enfer
製作年
2005年
製作国
フランス イタリア ベルギー 日本
配給
ビターズ・エンド
上映時間
102分

[c]キネマ旬報社

映画レビュー

4.0
  • 4
    2007/5/9

                      評価8点(10点満点)

     なかなか面白かった。原題は「地獄」だが、暗さはなく、生の肯定に根ざした吹っ切れた明るさがある。それは、車椅子生活で、言葉もしゃべれないという地獄を生きているはずの母親(キャロル・ブーケ)の、あの強い意志を秘めた目が象徴している。その母と同じ資質を受け継ぐ娘たちも、男と上手くやっていけないという地獄を抱えながらも三様に生きることに前向きである。母と娘3人、女たちのたくましさ、強さが印象に残るのだが、それに対して、男たちのなんと弱々しく情けないことよ!

     22年前に父親が起こした事件及びその死がトラウマとなり、三姉妹のその後の人生に深く影響を与えたことは確かであろう。そして今父は無実だったことがわかり、トラウマの克服の可能性を感じながら娘たちが母と会う。
     そのとき母は、「決して後悔しない」と言う。
     この言葉で、母の夫への憎悪は消えていない、予定調和は否定され場面は暗転して終わる、という解釈が多い。
     しかし、果たしてそうだろうか?
    「たとえ無実だったとしても夫は裁判で真実を語らなかったわけだし、私に暴力を加え、おかげで口が聞けなくなり、施設で車椅子生活を余儀なくされている。そして無責任にも自殺してしまった。夫が無実の罪だというのがわかったからって、いまさらそれが何だというの?それで今の状況が変わるわけでもないし。それよりも、あんたたちも私も、これから生き続けていくことが大事なのよ!」
     こう、言いたかったのだと思う。地獄からの脱却を予兆するラストだと思うのである。

     同じ姉妹物でも「イン・ハー・シューズ」では、対照的な性格の姉と妹の関係に重きを置いて描かれていたが、本作品では姉妹間の関係はほとんど描かれていず、娘たちの近況が万華鏡を回転させながら見ていくように順番に、等分に絵柄のように表されていく。この手法により、今まさに娘たちに起こっていることを同時に追体験できるわけだ。「万華鏡」の意匠は構造にまで及んでいるということだろうか。上手い脚本(あるいは脚色)だと思う。

     同じ母の遺伝子を持ちながら違う性格の三姉妹の、等分に描かれたそれぞれのありようが面白い。
     その中では、何となく抜けている二女のセリーヌ(カリン・ヴィアール)のエピソードが好きである。
     三女のアンヌ(マリー・ジラン)が不倫相手(ジャック・ペラン)の娘と妻にあてつけのように恋愛相談するところが恐ろしい。男ならこんなことは絶対にできない。まさに女という性(さが)の地獄を見せつけられたようなシーンであり、秀逸。

     結構笑わせるところもある。
    1. いつも一人で列車で寝ているセリーヌに車掌がプレゼントしようとすると、他に二人の女が居た
    2. セリーヌは路上で声をかけられた男を自分に気があると勘違いし、部屋に入れ、裸になってベッドで待った
    3. 車椅子の母との散歩の後、お茶の時間にセリーヌの読む本がギネスブックで、人喰いの最高記録とか
     苛烈な状況の描写の合間にこのようなシーンが挿入されることにより、物語にコクが出たように思う。

     女性向けに作られた映画だとのコメントもあるようだが、そんなことは無い。本当に優れた作品は、見る者の性別を問わないのだ。

     美しい4人の女優それぞれが上手い。
     エマニュエル・ベアールは夫に別れを切り出す場面の演技が秀逸。抱いてほしいけれど別れるしかないとも思う複雑な感情を見事に表現した。40歳になるのに体の線が崩れていず、大したもんだと思う。
     カリン・ヴィアールは寝顔が美しく、俺が車掌だとしても、同じように見つめてしまうだろう。このキャスティングは、成功している。裸になったのが自分の早とちりだと知ったときの表情も、上手い。
     マリー・ジランは、恋愛で盲目状態になり自己中心的な言動を取る女をリアルに演じた。一途な目の光が印象的である。
     キャロル・ブーケの目の演技がすごい。目の表情だけで、凛とした生きる姿勢が伝わってくるのだ。

     音楽:ダスコ・セグヴィッチも良い。

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