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投稿レビュー(1件)子連れ狼 冥府魔道は星4つ

この殺伐な映画で散る、安田道代演ずる乙女の死、ここに浪漫主義の真髄あり! (投稿日:2010年4月25日)

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 画面後方に海が見える。筑前黒田藩の所領たらば、九州北西部の日本海であろう。画面左から、険しい岩山が海沿いの断崖を成し、画面右からは小高い砂丘が伸び、後方の海辺の砂浜へとつながる。カメラは遠景のショットで、拝一刀が箱車を押しながら砂丘の中を岸辺に向かうのが小さく見える。既に、二つの刺客の仕事をやり遂げ、そのやってきた「冥府魔道」の途上には累々とした屍が折り重なって並んでいるのである。

 と、拝がその砂丘を越えたところでカメラは拝の視点を取る。向こうの砂浜に女の結髪の一部が画面右に小さく見え始める。観る者はそれが誰のものであろうかと訝しく思いながら、画面は少々大きくなる。女は武家の出らしく、砂浜の上に畏まって早くも拝に対してお辞儀をしている。女は質のよさそうな、薄黄色の着物を着用してる。その左後方には木船が一艘置かれてある。

 ここまで来ると、カメラは更にアップとなり、観る者には、その女が黒田藩の女密偵・不知火であることが知れる。首を上げる不知火。その結髪の一部が乱れている。その不知火に対する、今度は拝の逆アップ。そこで、拝が鋭く事の何かを見抜いて、言い放った。
「不知火殿、陰腹を召されたな。」
それに応えて、不知火は言う。
「拝様、亡き殿のお後に従い、これより黄泉の国へ御伴つかりまする。」
不知火はこう言って再び首を下げたのであった。それには、応える事無く、木船のあるところに行き、大五郎を抱いて船に乗せる拝。それを今度は砂浜に立ち上がって見守る不知火。拝は、不知火を返り見る事無く、海に漕ぎ出してゆく。

 すると、カメラは櫂を漕ぐ拝の視点の距離から不知火を見つめる。それまで両手をきちんと前に揃えて毅然と立っていた不知火が、ここに至って突然前によろめき、海水に足を入れる。カメラがアップとなり、不知火は、更に崩れ落ちて、海水の中に座る。既に、顔は蒼白であり、遠ざかる拝をうつろに見送っている。それまで着物には滲んで出ていなかった鮮血が今は打ち寄せる海水に混じって、これを紅く染めている。こうして、沈む夕陽に向けて更に海へ漕ぎ出す拝父子を見送るカメラでラストシーンとなり、「完」のエンディング・マークが画面左に大きく出る。

 『子連れ狼』は、劇画を実写化しているという点、そこからも来るのであろうスプラッターへの偏愛傾向、いずれの点においても現代の映画美学の一方向の先端を既に1970年代初頭の当時に行ったものと評価できるだろう。また、その、反勧善懲悪のモラル、大量殺戮の残虐性、そして殺陣のアクロバットの、三点において、その少し前に一世を風靡した「マカロニ・ウェスタン」への日本的回答だったとも言えるのである。

 このような『子連れ狼』シリーズの立役者となったのが、時代劇監督三隅研次であるが、この三隅監督が、原作者で脚本を書いた小池一夫と主演の若山富三郎とのトリオで制作した作品は、若山主演の本シリーズ映画6本中の4本を数える。シリーズ第一作の「子を貸し腕貸しつかまつる」(1972年)、第二作の「三途の川の乳母車」(1972年)、第三作の「死に風に向う乳母車」(1972年)、そして、第五作の「冥府魔道」(1973年)である。そして、それぞれの作品では、僕の目から見て、気になる女優たちが活躍している。第一作で、夜鷹で、カモになったお客の懐を狙う「枕探しお仙」をやった「肉体派」の真山知子、第二作で、明石柳生の女指南役、「柳生鞘香」を演じた松尾嘉代、第三作で、「忘八者」というヤクザの女元締「酉蔵」をこなした浜木綿子、そして本作第五作で、上述の「不知火」を体現した安田道代、後の大楠道代である。

 女優安田の顔は、卵型で、目が大きく、鼻筋も通っている。確かに古典的美形である。しかし、それだけではない。顔を形作っている一つ一つの部分だけでは捉えきれない、顔全体がもつ、何か悲しみを秘めた、ある種の薄幸な運命を背負った顔立ちなのである。安田は、それだけに役柄が固定する危険があるものの、本人がただそこに立つだけで既にそこに悲劇的なドラマ性が立ち昇ってくる、そういう稀有な資質を持った女優だと言える。その、女優の特性を上手く掴み、上述のような、「乙女と死」という浪漫主義の典型的演出を本作品のラストシーン直前で現出した三隅監督の才能に深く敬意を表するものである。この二年後、三隅監督は亡くなる。享年五十四歳であった。 »ガイドライン違反報告

投稿:やまひで

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